心臓リハビリテーション部門
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2018.4.1
23

アブラがなければ生きられない!
アンチエイジングに脂質が必要なワケ

アブラは、漢字で書くと、「油」と「脂」のふたつに分かれます。簡単に言うと、「油」は、常温で液体のアブラ、一方「脂」は、常温で固体のアブラ、お肉についている、あの白い塊です。なにかと敵視され、敬遠されがちな“アブラ”ですが、本当はわたしたちのからだに不可欠な成分です。とくに、老化を防ぎ健康長寿を目指す皆さんは、上手にアブラを摂らなければなりません。

♥ スキさえあれば、脂肪を溜め込む!太古にさかのぼる、人体の性(サガ)

人類が脂肪を溜め込む背景には、「倹約遺伝子」の影響があるという説があります(J.V. Neel、1963年)。この説によれば、人類は常に気候変動、外敵や病気と闘ってきました。そうした中で、私たちのからだには、「極力エネルギーを倹約して脂肪を貯め込む」ためのシステムが備わりました。ところが今や、飽食の時代。それでも、長きにわたる“飢餓への備え”の遺伝子は、そう簡単には変わりません。こうして、私たちのからだはいとも簡単に余分な脂肪を貯め込むようになったというもの。その後の研究から、この倹約遺伝子は“β3-アドレナリン受容体遺伝子”に関するものではないかとの説があり、また反論も出されたりしていますが、いずれにせよ、脂肪過多の現代人が多いのは確かでしょう。

♥ アブラが足りないと老化が進む!“脂質”の7つの役割

ところで、脂肪は1gでも減らしたい!と言う前に、脂肪は何のためにあるか、考えたことがありますか? 図1に、脂肪成分(脂質)が体内で果たす役割をまとめてみました。

図1

  1. 細胞膜の材料になる
    わたしたちのからだには約60兆個の細胞があります。これらの細胞の外套である“細胞膜”には、リン脂質やコレステロールといった脂質成分が使われています。
  2. 脳・神経系の機能を保つ
    大脳髄質の55%、大脳皮質の30%は脂質成分から成っています。神経細胞にとっても重要で、子供のシナプスの成長に脂質は不可欠です。
  3. 体温を維持し、臓器を守る
    体脂肪や内臓脂肪は臓器や筋肉を寒さから守る“おくるみ”の役割をします。また衝撃から守るクッションの役目も果たしています。ダイエットで皮下脂肪が減少すると冷え性になる人がいるのはそのためです。
  4. 肌や毛髪の健康を保つ
    皮脂膜は天然の“保護クリーム”と言われています。皮脂膜がなければ皮膚は砂漠状態となります。若々しい肌や髪を維持するには、脂質が欠かせません。
  5. 血液成分や各種ホルモンの材料になる
    赤血球や白血球などの膜にはリン脂質、また血漿成分にも脂質が使われています。また性ホルモンなどの材料にもなっています。
  6. 神経、免疫、内分泌系のメッセージ物質を受け取る“受容体(レセプター)”を構成する
    神経や免疫、内分泌系は、それぞれが固有のメッセージを各臓器に伝えるメッセージ物質を放出します。そのメッセージを受け取る“窓”であるレセプターには、リン脂質、糖脂質などが使われています。
  7. 活動のための貯蔵エネルギー(燃料)
    体脂肪や内臓脂肪は、1g燃えると9kcalもの熱を発生します。単純計算すると、例えば体重60kg、体脂肪率25%のヒトでは約100,000kcal分の燃料を貯蔵しており、何もしなければ、水だけで3か月はもちそうです。

♥ 脂肪細胞は余った脂肪の入れ物、いっぱいになると増殖する

体内で余ったアブラの9割は、皮下や内臓の周りに溜まります。体脂肪の入れ物になるのが、脂肪細胞です。図2は、特殊な方法で撮影された中性脂肪の姿1)

図2

通常は直径80μmほどの大きさで、成人では約400億個といわれます。しかし脂肪が過剰になると、あまった脂肪をどんどん取り込んで、限界まで肥大化(約3倍の大きさ、直径140μm近くまで)し、最大1μgの脂肪が入ると言われています。脂肪細胞の数が増えるのは思春期まで、とされてきました。しかし近年、思春期を過ぎても、現在の脂肪細胞がいっぱいになると、数を増やしてさらに脂肪を取り込むということがわかってきました。いったん数が増えると、ダイエットで脂肪細胞の大きさは小さくなっても、数は減らすことはできません。

脂質は生きるために不可欠なからだの構成成分です。脂肪を全く摂らなくなると、からだの機能や構造が保てなくなり、細胞レベルでの老化が進んでしまいます。しかし、撮り過ぎるとさまざまな悪影響が出ます。次の項では、摂り過ぎによる弊害について見てみましょう。

もっと知りたい方へ

生命を支える大切な存在、ですが・・・
肥大化した脂肪細胞が引き起こす、不都合な影響

■ 人体にある脂質ファミリー

脂質には、中性脂肪、脂肪酸、コレステロール、リン脂質、糖脂質など、多くの種類があります。体脂肪とはその総称です。皮膚の内側についているのが皮下脂肪、豚肉や牛肉などについている、あの白い脂身です。内臓の周りについているのが内臓脂肪。皮下脂肪と内臓脂肪で体内の脂肪の約9割を占めています。一方、脂肪酸は中性脂肪の構成要素の一部で、1個のグリセロール基と3つの脂肪酸の組み合わせると、中性脂肪が構成されます。またコレステロールは、とかく悪者扱いされがちですが、実は体内で働く多種多様なホルモンの材料です。そしてリン脂質は、細胞膜の構成成分であるとともに、伝達物質など生命体の維持には欠かせない脂質です。

現代人が昔に比べて長寿となったのも、食生活が豊かになり脂質が充足してきたからだといわれています。

■ 普段はよい物質を出す脂肪細胞、肥大化すると悪い物質を放出する

脂肪細胞の内部には脂質の膜で囲まれた大きなカプセルがあり、その中に“脂肪滴”と呼ばれる中性脂肪成分が溜まっています。しかし、内臓脂肪は単に脂肪を貯めておくための組織ではありません。アディポカインと呼ばれるさまざまな生理活性物質(サイトカイン)を分泌して代謝や免疫、生体機能に関わり、わたしたちのからだを守っています2,3,4)。健康な脂肪細胞は直径80μm、成人ではおよそ400億個とされています。図3の左側のように、正常な脂肪細胞は以下のような生活習慣病を予防する物質を放出しています5)

  • ✓ レプチン・・・満腹中枢を刺激して、食欲を抑制する。
  • ✓ アディポネクチン・・・血圧や中性脂肪を下げる。傷んだ血管を修復して、動脈硬化を防ぐ。

こうした“よい生理活性物質”を維持することが、アンチエイジングの重要な方策とも言えます。

■ 脂肪細胞が肥大化すると、悪い物質を放出しだす

しかし、中性脂肪が過度に溜まり肥大化すると、図3の右側のように、生活習慣病を招く物質を放出するようになります。

図3

  • ✓ TNF‐α・・・インスリンの働きを妨げ、血糖値を上げる。
  • ✓ アンジオテンシノーゲン・・・血圧を上げる。
  • ✓ PAI‐1・・・血栓(血液の塊)をつくり、血栓塞栓症を引き起こす。

皮下脂肪よりも内臓脂肪型肥満のほうが、生活習慣病を招く生理活性物質が増加しやすいと言われています。こうして、内臓肥満が引き金となって糖尿病、高血圧症、脂質異常症、動脈硬化などの生活習慣病のリスクが高まり、前回紹介した“メタボリックドミノ倒し”が始まります。

問題は「何を、どれくらい摂るべきか?」。アブラを効果的に摂り健康寿命を伸ばすには、どうしたらいいか?次回以降にご紹介します。

参考文献:

  1. 松本太郎、医学の歩み、242巻4号 2012年
  2. 昭和大学薬学部生物化学教室 脂肪滴での中性脂肪の蓄積と分解を制御するPATファミリ: http://www.showa-u.ac.jp/sch/pharm/showa_jour_pharm/back_number/frdi8b000000i820-att/1-1_Tomohiro_Yamaguchi.pdf
  3. 脂肪細胞とインスリン抵抗性(星薬科大学オープン・リサーチより): http://polaris.hoshi.ac.jp/openresearch/kamata%20(adipocyte)--2.html#AD-INS8
  4. 技術評論社 西村尚子 知っているようで知らない免疫の話 ヒトの免疫はミミズの免疫とどう違う?(2010/8/25)
  5. 大学院生物資源学研究科准教授 青木直人 コメディカルの立場からメタボに立ち向かう;http://www.mie-u.ac.jp/report/wm/wm040_14_15.pdf