心臓リハビリテーション部門
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2018.11.1
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健康診断で「脂質異常」と言われたら
脂質管理の目的は、病気の予防と再発防止です

脂質というと、真っ先に思い浮かぶのがお腹まわりの体脂肪かもしれません。しかし、“塊(かたまり)”としてつく“体脂肪”と、血液中に含まれる“血中脂質成分”とは違うもので、痩せていても脂質異常で引っかかる人はたくさんいます。今回は、日本動脈硬化学会の最新ガイドラインをもとに、“血中脂質”について考えます。

♥ 中性脂肪とコレステロールは、動脈硬化疾患のリスクファクター

病院や検診などの血液検査でおなじみの“脂質”とは、中性脂肪とコレステロールです。表1に日本動脈硬化学会の最新の基準を載せました1)。いずれも将来動脈硬化を進行させる“リスクファクター”とされています。ちなみに“Non-LDLコレステロール”とは、LDLではないコレステロール(HDLおよびその他の微量ずつ存在するコレステロール)の総量です。

表1

♥ 病気になる前の“一次予防”、再発防止のための“二次予防”

血清LDLコレステロール値が高く、HDLコレステロールが低い場合は、心筋梗塞や脳梗塞を初めとする動脈硬化性疾患にかかるリスクが高いとされており、リスクファクターを抑えて病気にならないようにすることを“一次予防”と呼びます。一次予防としては、LDLコレステロールは130mg/dl未満、中性脂肪は150mg/dl未満、HDLコレステロールは40mg/dl以上に保つことが推奨されます。

一方、以前に発病した人に同じ病気が再発するのを予防することは、“二次予防”と呼びます。図1はLDLコレステロール値が高いほど冠動脈疾患の相対リスクが上がることを示しています。心不全や心筋梗塞などが再発するたびに心機能や体力が落ちていくため、“再発しないこと”がとても重要です。二次予防のためには、LDLコレステロール(いわゆる“悪玉”)を70mg/dl以下に、HDLコレステロール(いわゆる“善玉”)を40mg/dl以上に、中性脂肪40mg/dl以上に保つよう推奨されています(表2)1)

図1

表2

♥ コレステロール:リスク度はこうして計る

図2は、LDLコレステロールの異常高値を指摘された場合のフローチャートです。まず、心筋梗塞などの既往のある人は、再発を防ぐため、二次予防をしっかり行うことが必要です。心筋梗塞がない場合で、糖尿病、非心原性脳梗塞、慢性腎臓病、末梢動脈疾患を発症した場合は、ハイリスク症例と判断されます。4つの病気が“なし”の場合、動脈硬化のリスクファクターである喫煙、高血圧、低LDL血症、耐糖能異常または若年発症の冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)のうち当てはまる数をカウントし、その個数に性別、年齢を考慮して、動脈硬化性疾患のリスクのレベルが決定します。

図2

リスク度に応じて、表2のような脂質の管理が必要となります。

♥ 中性脂肪:落とし穴は、“ビール”と“つまみ”と“糖質過多”

筆者の経験では、中性脂肪で引っかかるひとが増えるのは、ズバリ、8-9月と2-3月です。なぜか?中性脂肪は脂質ですが、カギを握るのは、むしろ炭水化物(糖質)。夏は“ビール”がおいしい季節であり、また清涼飲料水やアイスなどの糖質が増える時期。また、暑さで食欲がないときは、ついついのどごしがよい“麺類”で済ませてしまいがちです。そのツケが、秋口にやってきます。

また、年末年始から増えた食事と寒さによる不活動がズルズルと続くと、春先のデータに影響が・・・。

体質や遺伝の影響が強いコレステロールに対し、中性脂肪は食事や運動などの生活習慣によってすぐに変わります。中性脂肪、コレステロールの両方が引っかかった人は、まず中性脂肪の是正から始めるのも一つです。

もっと知りたい方へ

動脈硬化の進行を抑えるために、なるべく早く、そして十分な脂質管理を

“Sooner is better”、また“Too little, too late”という言葉をご存じですか?脂質管理は早く始めるほどよい、また中途半端な介入では病気の予防が遅れてしまう、という意味です。実際の治療はどのように行われるのでしょうか。

■ まずは、生活習慣の改善が先決

表3は、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』に示されている、動脈硬化性疾患予防のための生活習慣の改善を示しています。

表3

また表4、5は、同じガイドライン内にある、動物硬化性疾患予防のための食事指導および運動療法の指針を示しています。一次予防、二次予防ともに、このガイドラインが適用されます。

表4

表5

特に中性脂肪は、生活習慣の是正によって正常化することも十分ありうるため、内服を始める前にぜひ改善を心がけましょう。

■ 動脈硬化を退縮させる飲み薬:“スタチン”

なるべく薬を飲みたくない、という人は、増えています。しかし、コレステロールに関しては、体質や遺伝の要素が大きく、食事や運動で是正されるのは2割くらいといわれています。特に、すでに動脈硬化の所見が指摘されている患者さんには、多くの場合薬が必要です。

“スタチン”系と呼ばれる薬は、コレステロールを下げるだけでなく、動脈硬化のプラークを安定化させる効果があると証明されており、特に血管内プラークが多くみられる患者さんには、コレステロールの値を下げる目的とは別に、プラークの進展を抑える目的で処方されることがあります。

■ その他の治療薬

スタチンだけで効果が不十分な場合に、以下のようなお薬が追加されることがあります。

  1. コレステロールの小腸での吸収をおさえる薬:エゼチミブなど
  2. コレステロールに結合し、体の外に出す薬 :プロブコール、陰イオン交換樹脂(レジン)など

また最近発売されたコレステロールの注射薬・PCSK9阻害薬は、飲み薬に比べ強力なLDLコレステロール値低下効果があります。高価な薬ですが、家族性高コレステロール血症(遺伝性)の患者さんなどは飲み薬だけでは十分ではなく、追加で使用する場合があります。肝臓にコレステロールが吸収されるのを促進します。 1回注射すると2~4週間効果が持続します。慣れてくれば家で自己注射することも可能です。

今年の健康診断の結果はいかがでしたか?もし脂質異常で引っかかっていたら、将来のリスクを少しでも抑えるために、是非早めに対応を心がけましょう。

参考文献:

  1. 日本動脈硬化学会編:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 2017