心臓リハビリテーション部門
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2019.4.1
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その生活習慣が認知症につながる?!
心血管リスクと認知症リスクの怖~い関係

医療において最も深刻となっている問題の1つが、高齢化に伴う認知症患者の増加です。厚生労働省は、認知症患者は年を追うごとに増え続け、2025年には国内に約700-800万人となると試算しています。また、このころには65歳以上の5人に1人が認知症と診断されると言われています1)

今回は、特に心血管リスクと認知症の関係について考えてみましょう。

♥ 認知症だって、生活習慣病が原因で起こる

認知症にはいくつかの種類があります。日本人に最も多いのは“アルツハイマー型認知症”、次に多いのは“レビー小体型認知症”です。いずれも脳の神経細胞の変性疾患だから、生活習慣に関係なく起こるものと以前は考えられていました。一方、“脳血管性認知症”は、脳の血管障害でおきる脳梗塞や脳出血によって起こる認知症です。脳内の動脈硬化が進行して起こる病態であり、心血管病のリスクファクターが密接に関係しています。

しかし、最近の研究から、直接動脈硬化とは関係ないと思われていたアルツハイマー型認知症も、メタボリック症候群など生活習慣病と関係があるということがわかってきました。

♥ 高血圧、糖尿病、喫煙は認知症のリスク因子!久山町研究からわかること

久山町研究という、日本人を対象とした大規模かつ長期間にわたる疫学研究があります。その中から、生活習慣病と認知症の発症リスクに関する興味深いデータがいくつも出ています。

図1は、中年期の高血圧と血管性認知症の発症リスク(相対危険度)を表しています。見ての通り、高血圧のレベルが高いほど、将来の認知症発症リスクが上がることがわかります2)

図1

図2は、アルツハイマー型認知症と血管性認知症それぞれの高血糖のレベルと認知症の発症リスクを表し、特にアルツハイマー型認知症においては糖尿病の患者さんの認知症発症リスクが高いことがわかります3)

図2

さらに、図3では、喫煙したことのない人、以前喫煙していて禁煙した人、以前からずっと喫煙を続けている人、の3グループで比較すると、喫煙を続けている人ではアルツハイマー病、血管性認知症ともに3倍近くもリスクが高いことがわかります4)。逆に、禁煙すればリスクは下がる、ということです。

図3

このように、生活習慣病は将来の認知症発症リスクに深くかかわっているといえます。

♥ 心臓病と脳の変成にも関係が…

低心機能を呈する患者では、大脳白質病変が高頻度に存在すること5)や、認知機能が全般に低下していること6)が報告されています。さらに心機能が低下した患者では脳の萎縮が顕著であるということが明らかにされました7)。 認知症患者の急増は、国民の平均寿命が延びていることと深い関係があります。江戸時代には認知症という概念はおそらくありませんでした。何十年も使い古した脳には、他の臓器と同様、様々な変化が起こります。

次項では、将来の認知症のリスクを減らす、生活習慣病の予防について考えます。

もっと知りたい方へ

心血管病の予防が、認知症の進行予防につながる!

脳卒中や心血管病は、がんと並んで日本人の国民病です。そして、心血管病が認知症の発症リスクと深い関係があることがわかってきました。一方で、心血管病のリスクファクターである生活習慣病の予防が、認知症のリスクを低減するカギであることも言われています。

■ 生活習慣病を治療すると、認知症のリスクも減少

図4を見てください。これはフランスから発表された研究の結果です。

図4

アルツハイマー型と診断された約300人を対象に、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙習慣、肥満などの生活習慣病を全く管理しなかった群、ある程度管理した群、完全に管理した群の3グループに分け、それぞれ認知機能のテスト(MMSE)の点数がどのように変化するかを調べました。30点満点で、大まかに27点以上であればほぼ問題なし、22点以上であれば最低限自立した生活はできると判断されます。この研究では、おおよそ22点の患者さんを対象に、30か月までの点数の変化を追いました。その結果、生活習慣病をすべて管理できた群ではMMSEの低下はせいぜい20点くらいまででしたが、全く管理されなかった群では最終的に14点程度まで低下してしまいました8)。この点数では、自立した生活を行うのが困難な状態です。このように、生活習慣病の管理が、認知機能低下の進行を遅らせる重要なカギを握っていることがわかります。

■ 認知症予防につながる生活習慣の見直し

高血圧や糖尿病などの生活習慣病があれば、きちんと治療に取り組むことが大切です。

  1. 食事:糖質や脂質の多い食事を抑え、高血糖や脂質代謝異常を予防しましょう。
  2. 減塩:塩分を抑えることは高血圧のリスクを減らすことにつながります。
  3. 禁煙:タバコは最も重大なリスクファクターのひとつです。
  4. 運動:適度な運動は肥満を解消するだけでなく、代謝の改善、血管内皮機能の改善、免疫能の向上、運動能力の向上など全身によい影響を及ぼします。

■アタマを使いながらカラダを動かす、「デュアルタスク」のトレーニングが効果的

デュアルタスクとは、同時に2つの動作を行なうことです。いわば、運動と脳トレを同時に行うことです。「ながら動作」とも呼ばれます。実際に多くのスポーツでは、アタマを使いながらカラダを動かしています。テニスなら、どのコースに打てばリターンされにくいか、マラソンなら、どこでスパートを仕掛けるか、など。

本格的なスポーツでなくても、日常で簡単にできるデュアルタスクはたくさんあります。

  • ウォーキングをしながら引き算をする
  • 階段を上りながらしりとりをする
  • 洗濯をたたみながらテレビを見る

大切なのは、アタマもカラダも同時にきちんと動かすこと。どちらかがおろそかにならないように行いましょう。認知症予防の効果が認められているのは、ウォーキングや足踏みなどの簡単な運動です(ちなみに、テレビを見ながらポテトチップスを食べる、といった“ながら動作”は、効果なしですよ)。

イギリスでは、10年ほど前から「循環器病の治療が認知症予防」として、国を挙げて減塩や禁煙のキャンペーンを行っているとききます。日本でも、循環器病の対策に向けて法律が制定されるなど、国を挙げて生活習慣病の予防に乗り出しています。アナタも、むやみに認知症を恐れる前に、まずは今日からできる生活習慣の見直しに取り組んでみませんか。

参考文献:

  1. 2014年度厚生労働省科研費特別研究事業
  2. Ninomiya T, Hypertension 2011, 58: 22-8
  3. Ohara T, Neurology, 77: 2011, 1126-34
  4. Ohara T, J Am Geriatr Soc 2015
  5. Jefferson AL, et al. Neurobiol Aging. 2007
  6. Qui C, et al. Arch Intern Med.; 2006 166: 1003-8
  7. Jefferson AL, et al. Circulation. 2010; 17; 122(7): 690-7.
  8. Deschaintre, et al. Neurology. 2009