心臓リハビリテーション部門
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2020.12.1
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不活動は心臓へ負担をかける?!
少しでもからだを動かして、心身を活性化させよう

コロナ禍で自粛生活が続く中、1日のほとんどをソファかベッドで過ごすという高齢者が増えています。働く世代でも、リモートワークや自粛生活により、運動の機会が減ったという人が少なくありません。しかし、こうした「不活動」が心疾患リスクを高め、心不全を悪化させる要因にもなることがわかっています。具体的にどのような弊害があるのか、まとめてみました。

♥ 動かないこと(不活動)は、健康寿命を脅かすリスク

不活動は、運動能力の低下をもたらすのみならず、からだにさまざまな異変を引き起こします。

  1. 筋肉量が減る
    ヒトの筋肉は、放っておいても30代を過ぎる頃から年に1%ずつ減少していくといわれています。2018年2月のコラムにも掲載しましたが、図1を見ると、50代では30代の20%、70代では実に40%も失われることがわかります1)。こうして身体活動能力が低下し、足腰が弱っていわゆる“ロコモティブシンドローム”、そして“寝たきり”に近づいていきます。
    図1
  2. 免疫力を低下させる
    基礎代謝が下がるため、脂肪が燃えにくくなり、冷えやすくなります。体温が1℃下がると、免疫力は3割異常低下するといわれています。コロナ禍においてカギとなるのはもちろん、強い免疫力の維持でしょう。しっかりと適度な運動を続けることは、感染症対策としても重要なことです。
  3. 生活習慣病のリスクを上げる
    活動性の低下はインスリン抵抗性を低下させ、肥満、糖尿病や脂質異常の生活習慣病のリスクを上げます。
  4. 血行を低下させる
    運動不足では血の巡りが悪くなり、老廃物の排出が滞ります。これが筋肉の硬直を引き起こし肩こりや腰痛、冷え性、むくみなどの原因となります。最悪の場合、末梢から心臓への血液の戻りが悪くなり、下肢の静脈血栓症を引き起こすことがあります。
  5. 自律神経の乱れがおこる
    自律神経には活動モードの「交感神経」と癒やし・回復モードの「副交感神経」があり、両方がバランス良く働くことによって、運動機能だけでなく内臓のはたらき、代謝や免疫やホルモン分泌など生きるために不可欠な体内の活動を維持しています。不活動が続くと、このバランスが崩れ、不整脈や過呼吸、不眠などさまざまな不具合が出やすくなります。
  6. うつ病などの精神疾患を引き起こす
    運動不足は精神面にも悪影響を与えます。自律神経系やホルモンバランスの乱れは、気持ちの不安定に繋がり、ひどくなるとうつ病などの原因になるとも言われています。
  7. 健康寿命が低下する
    運動能力が高い人ほど、健康寿命が延びることは感覚的にも理解できますが、実際、運動耐容能が高くなるほど死亡リスクが下がるというデータは世界中で数多く報告されています。図2は、活動性と寿命の関係を調べた研究です。
    図2 1923-1932年生まれを対象とする「オスロ研究」より、2000年に存命していた5,700人を12年間追跡。2011年に存命中の対象者(80歳以上)3,600人約が対象です。80歳以上の高齢者が30分の運動を週に6日行うと、運動の強度が軽いか激しいかに関係なく、死亡リスクが40%低下することになります2)

このように身体機能から精神機能まで、運動不足はあらゆる健康リスクの元にもなり、結果的に寿命を縮める深刻な要因ともなっています。コロナ禍でまったく外出しなくなった高齢者が増えていますが、人の集まるところを避け、適度にからだを動かすことにより、結果的には病気や体力の低下を回避することになるのです。

もっと知りたい方へ

筋肉を動かすことが心臓のリスクを減らす理由

■ ふくらはぎはなぜ「第2の心臓」と言われるか

血液循環を担うのは心臓だけではありません。「骨格筋」も、血液循環ポンプとして血液循環を担っています(図3)。
図3
骨格筋を収縮させると、筋肉の間の静脈を介して血液を心臓まで戻します(静脈還流)。運動時には骨格筋のポンプ機能がフルにはたらいて、安静時の実に5倍もの血液を循環させることができます。また、心臓病によりポンプ機能が弱っている場合には、「補助ポンプ」である骨格筋のはたらきが大変重要になります。つまり、筋肉の量が多く筋力がしっかりしている者ほど、心臓のポンプ機能を助けることができ、心臓も長持ちするというわけです。特に足には筋肉量が多いことから、「第二の心臓」といわれています。

最近では心臓病の人に対しても、積極的に運動療法が推奨されています。心臓の負担を減らすためには継続的な運動が必要です。また運動能力が高い人ほど死亡リスクは低くなるというデータが、世界中にたくさんあります3)。むしろ、長い期間安静にしすぎると、筋力低下、呼吸機能低下、起立性低血圧(立ちくらみ・ふらつき)、骨粗鬆症など、全身の調節機構まで異常をきたし、かえって心血管リスクが上がるのです。運動療法は、心臓病に対する有効な治療のひとつとして、すでに世界中で確立しています。

コロナを恐れる余り極端な不活動が続けば、「フレイル(虚弱、体力の減退)」や「ロコモティブシンドローム(関節症や骨粗鬆症などの運動器の障害)」、「サルコペニア(筋量低下)」に陥るリスクが高まります。健康を維持するためにも、密を避け、屋外でのウォーキングなど適度な運動に取り組むことが大切です。

■ 運動を習慣化させるコツ

では、もともと運動不足、また運動が好きではない人が無理なく運動を続けるには、どうしたらよいか?ここでは敢えて、ちょっとユルめのアドバイスをしましょう。

  1. 「全力の6割」の力で、週3-4回、30分を目安に
    体力作りを目的とする運動では、目標は、「全力の6割」。余力を残すつもりで続けましょう。週7日運動を全力で行うとかえって筋肉を減らしてしまうというデータがあります。
  2. やりたくない日は、休んでOK
    ちょっと気が進まない程度であれば、とりあえずウォーミングアップをやってみます。どうしても気分が乗らない日は、割り切ってお休みに。無理矢理からだを動かすと、かえって運動への意欲を削いでしまいます。明日に賭ける!というつもりで、リラクゼーションに徹するのもアリです。
  3. 甘いものは、運動の後のご褒美に
    運動ギライで甘いものが大好き、というワガママな?人は、甘いものを運動後のご褒美にしましょう。運動中に筋肉内の糖質が消費された分、多少補っても余ることはないと言われています。100kcal以下であれば、栄養バランスに大きな崩れはないとされています。
  4. 家事や仕事中のカロリー消費も、馬鹿にならない!
    家事や通勤など日常の活動の中で生じるものがあります。「しっかりとした運動ではなく、立っている姿勢を維持したり家事をしたりという日常生活の動きをする際に発生するエネルギー」のことを“NEAT(ニート(非運動性活動熱産生、Non-Exercise Activity Thermogenesis))”と呼びます。実は、1日の消費エネルギーの30%程度は、しっかりとした運動ではなく日常身体活動によるもの1)。なかなか運動時間を取れないという人は、家事や仕事中にこまめに動くことから始めてみてもいいでしょう。

スポーツ庁では、ロコモティブシンドロームを防ぐ運動である「ロコトレ」を紹介しています(図4)4)

図4

このような下半身の運動は、図3に示したように、補助ポンプとしての筋肉を活用し、心臓の負担を減らすことが、心不全を防ぎ、心臓を長持ちさせるコツです。

参考文献:

  1. 日本老年医学会雑誌、47巻1号(2010年)
  2. Holme, Br J Sports Med 2015;49:743-748
  3. Myers, et al. N Engl J Med 2002; 346:793-801
  4. ロコモチャレンジ!推進協議会:日本整形外科学会