心臓リハビリテーション部門
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2021.8.1
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心血管疾患とコロナ感染症
心血管リスクの低減が、感染予防につながる

コロナ禍が1年半に及ぶ中、世界の専門家、研究者たちがさまざまな角度からの研究報告を積み重ねてきました。今回は、心疾患のある人の重症化のリスクについてまとめてみたいと思います。

♥ 高齢者ほど、また基礎疾患がある人ほど、新型コロナ感染による致死率が高い

厚生労働省は新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第 5 版1)の中で、新型コロナウイルス感染症の重症化のリスク因子についてまとめています。この中では、基礎疾患がない症例と比較し,慢性腎臓病,肝疾患,肥満,脂質異常症,高血圧,糖尿病の患者さんは、入院後に重症化する割合が通常の人と比べて高い傾向にあるといわれています。また心疾患、慢性肺疾患,脳血管障害,慢性腎臓病の患者さんはこれらの病気のない人と比べて死亡する割合が高い傾向にあります。図1は、基礎疾患のあるなしによる致死率の違いを示しています。

図1

60 歳以上の基礎疾患のない患者の致死率は 3.9% であったのに対し、基礎疾患のある患者の致死率は 12.8% と高く、年齢が高くなるほど致死率が高くなることが分かります。実に3倍以上のリスクとなります。さらに、同じ80歳代でも、基礎疾患のあるなしで致死率は13.9%から21.7%に跳ね上がります2)

感染症の専門家が口をそろえて「高齢者や基礎疾患のある人は、感染してしまえば重症化しやすいため、ぜひ早めにワクチンを接種してください」というのは、この1年半に得られた膨大な臨床データの蓄積に裏打ちされた、根拠のある警告なのです。

♥ コロナ感染症重症化のリスク因子の半分は、心血管のリスク因子と共通!

新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第 5 版1)では、感染後に重症化するリスク因子についても触れています。表1は手引きからの引用です。

表1

左側に重症化のリスク因子が並んでいますが、真ん中から下の部分にある部分に注目してください。Ⅱ型糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満および喫煙、なんとこれらのすべてが、心血管疾患のリスク因子に共通しています。心血管疾患の患者さんには高齢者が多く、また慢性肺疾患などの併存症は年齢が上がるごとに増えていきます。こうしたリスク因子の多くは「生活習慣病」に含まれるもの。日々の食事や運動など、自身の心構えによって変えられる要素でもあります。心疾患のリスクを下げることが、重症化のリスクを下げることに繋がります。今治療を受けられている方は、改めてかかりつけ医と相談し、少しでもよい状態を保ちましょう。また検診などで高血圧や血糖、脂質の異常を指摘された方、肥満傾向の方は、今一度しっかりと生活習慣を見直す機会を持ちましょう。喫煙者は、これを機に是非禁煙を!

♥ 改めて、感染予防の基本原則に立ち返ってみましょう

国内でもコロナワクチンの接種が各地で進んでいます。それでも、密を避ける、マスクをつける、といった感染対策は忘れていけません。日本循環器学会が公表している「感染予防の基本原則」を表2に示します3)

表2

日々の生活においてコロナ禍に慣れきってしまわないよう、改めて確認していただければと思います。

もっと知りたい方へ

コロナ禍での肥満や運動不足は感染重症化リスクに直結する

■ 肥満患者ではコロナ感染時の重症化のリスクが増大!低栄養も要注意

米国の26医療機関において、新型コロナ感染症患者の中でBMIが30kg/m2の肥満患者8,641名(平均年齢49.68歳)と、BMIが30kg/m2未満の肥満でない患者31,273名(平均年齢49.87歳)との間で重症化のリスクを比較しました。発症30日以内の死亡または人工呼吸器使用に関する相対リスクは1.99(95%CI:1.84-2.15)、つまり命に関わる重症化リスクが2倍という結果が出ました。傾向スコアマッチング法を用いた解析(図2)でも、肥満群は非肥満群に比べて相対リスクが1.56倍と有意に高い結果でした4)

図2

肥満はさまざまな病気のリスク因子として知られていますが、新型コロナ感染症においても、多くの研究者が世界中から警告を発しています。

一方で、注意したいのが「低栄養」。高齢者を対象としたある調査では、コロナ感染症で入院中の患者を対象とした調査では、入院中の低栄養状態が院内死亡の独立危険因子の1つであるという結果が出ています5)。「適正な栄養状態」はコロナ禍でも重要な因子の1つです。

■ 日頃の運動不足がコロナ重症化のリスク因子となる!

普段から活動性の低い人、運動不足の人は、運動習慣のある人に比べて重症化リスクが高いというデータも出ています。図3を見てください。

図3

日頃から活動性が低い患者は、ウォーキングなどの運動を週に150分以上する習慣がある患者に比べて新型コロナ感染で重症化するリスクが明らかに高いことを示しています6)。運動不足そのものがコロナ感染症重症化のリスク因子なのですね。

コロナ感染症に限らず、どんな病気に関しても、「適正な栄養状態」と「適度な運動」がリスク低減のカギを握ります。コロナ禍で巣ごもり生活が長引き、すっかり運動不足になってしまったという人も増えています。どのような状況でも正しく栄養をとること、感染対策をしっかり行ったうえで運動習慣を継続することが、新型コロナ感染症から身を守るための条件です。

参考文献:

  1. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第 5 版
    https://www.kyoto.med.or.jp/covid19/pdf/2021ken2_105.pdf
  2. 国立国際医療研究センター  COVID-19 レジストリ研究 解析結果
  3. 日本循環器学会 新型コロナウイルスに関するQ&A(心臓病患者さん向け)
  4. Singh S, Bilal M, Pakhchanian H, et al.: Impact of Obesity on Outcomes of Patients With Coronavirus Disease 2019 in the United States: A Multicenter Electronic Health Records Network Study. Gastroenterology. 2020; 159(6): 2221-2225.
  5. Recinella G, Marasco G, Serafini G, et al.: Prognostic role of nutritional status in elderly patients hospitalized for COVID-19: a monocentric study. Aging Clin Exp Res. 2020; 32(12): 2695- 2701.
  6. Sallis R, et al. Physical inactivity is associated with a higher risk for severe COVID-19 outcomes: a study in 48 440 adult patients. Br J Sports Med 2021;0:1–8.