その運動、心臓にとって有益ですか?
やり過ぎても、やらなさすぎてもダメ、効果的な運動のススメ
■骨格筋のポンプ機能が心臓のポンプを助けます
ヒトは、心臓だけで全身に血液を循環させているわけではありません。骨格筋にも、局所の血液を心臓に返すポンプのはたらきがあり、特に足の筋肉は「第二の心臓」といわれています。心臓が弱った方、心臓の手術後の方こそ、心臓の負担を減らすためには継続的な運動が必要です。運動療法は、心臓病に対する有効な治療のひとつとして、すでに世界中で確立しています。
■心臓病になったら安静、は昔の話です!骨格筋ポンプを活用しよう
「ふくらはぎは第2の心臓」ということを聞いたことがありますか?血液を回すポンプは、心臓だけではありません。実は、「骨格筋」も、血液を循環させるポンプのはたらきを担っています。骨格筋を収縮させると、筋肉の間を走る静脈を介して、心臓まで血液をくみ上げて戻してくれます(静脈還流といいます)。こうした筋肉のポンプをフルに活用することにより、心臓のポンプが弱い人でも必要な血液の循環を保つことができます。
心臓病の人は安静を保つべし、と言われていたのは昔のこと。最近では心疾患の人に対しても、積極的に運動療法が推奨されています。むしろ、長い期間安静にしすぎると、筋力低下、呼吸機能低下、起立性低血圧(立ちくらみ・ふらつき)、骨粗鬆症など、全身の調節機構まで異常をきたし、かえって心血管リスクが上がるとさえ言われます。適度な運動を行って心臓を助けることにより、心臓を長持ちさせることができるのです。
■心臓にとって有益な運動をしていますか?
心臓にとって効果的な運動は、「骨格筋のポンプ機能をしっかり使って心臓に血液を返していく」レベルのもの。ただし、ご自身で「適度な運動」を推し量るのは、実際には容易なことではありません。「私はいつも家事で動き回っているわ」「仕事で事務所内を歩き回っているから」という方は、少なからずおられます。ただし、その運動が健康にとって有益なものかというと、必ずしもそうではない場合があります。「筋肉をしっかり収縮する」ことなく簡単にできてしまうようなルーチンワークであれば、心臓に血液を返していく効果につながりません。逆に、強すぎる運動は筋肉や心臓に度の負荷を与え、組織を壊してしまうこともあります。また、精神的ストレスを伴っていれば、少しの動きでも疲れや消耗をきたしてしまう場合があります。
■効果的な運動の簡単な目安
健康維持のための効果的な運動とは、軽く汗ばむ程度、呼吸は早くなるが、人と会話できる程度の運動であり、年齢から推定した最大心拍数の5~6割程度まで(カルボーネン法)とされています。
ただし、通常の心疾患をお持ちの方や著しい肥満ないし虚弱の方などの中には必ずしもこの目安が妥当でない場合があります。このような方には、病院での正確な検査をお勧めしています。
もっと知りたい方へ
包括的心臓リハビリテーションとは・・・?
■心血管疾患のリスクを減らす、運動療法の「エビデンス(科学的根拠)」
図1は、本人の体力の6割程度の強さの運動を週に2−3回行ったもの(運動療法群)と行わなかったもの(非運動療法群)とで、「心事故(心臓に関するトラブル、心臓死、心筋梗塞など)」の割合を比較したものです。運動療法群のほうが、心事故の割合は有意に少ない結果となりました(Belardinelli R, et al: Circulation, 1999, 99, 1173-1182)。
また図2は、狭心症の患者さんに対し、運動療法だけを行った場合(運動療法群)とカテーテル治療を行った場合(PCI群)とで比較していますが、運動療法群の方が、有意に心事故回避率が高いという結果が出ました(Hambrecht R, et al: Circulation, 2004, 109, 1371-1378)。もちろん、個々の患者さんの条件にもよりますが、運動療法は有効である、という多くの「エビデンス(科学的根拠)」が示されています。
■運動能力が落ちると、心血管疾患のリスクが増える
血液循環は心臓だけが担っているのではありません。心臓がメインポンプとすれば、骨格筋は補助ポンプ。筋肉を動かすことにより、局所の血流が促進され、心臓に血液を返してくれます。その分心臓の負担が軽減します。
図1は、運動能力に障害のある人とそうでない人の、心血管リスクの違いをみたものです。障害のない人に比べ、ある人は、リスクが高くなっています。特に女性でこの違いは顕著です。他にも、筋力の弱い人ほど死亡率や心疾患の発症リスクが高いという報告がいくつもあります。最近では筋力や体力をつけることにより、内臓疾患、特に心臓血管系のリスクを予防するという考え方も出てきています。
■健康維持のための、効果的な運動の目安
端的に言うと、「有酸素運動の範囲での運動が望ましい」といえますが、「有酸素運動の範囲」は人によって、またその日のコンディションによって異なり、日常生活の中で正確に把握するのは困難です。ただし、ウォーキングなどの運動をご自身で行う際の簡単な目安があります。
- 軽く汗ばむ程度、呼吸は早くなるが、人と会話できる程度の運動
- 最大心拍数の5~6割程度まで
「標準的な体力」の方においては、最大心拍数の目安は、以下の式から求められます(カルボーネン法)。
『(220-年齢-安静時心拍数)×60%+安静時心拍数』
従って、上の式で求められた最大心拍数の6割程度が、効果的な運動の強さの目安となります(「無酸素運動性閾値」といいます)。年齢50歳、安静時心拍数60/回の人であれば、最大心拍数=(220-50-60)×60%+60=136、つまり心拍数136/回を目安に運動すれば良いことになります。
しかし、心疾患をお持ちの方や著しい虚弱の方など、標準的な推定値が必ずしも妥当でない場合があります。このような方々は、体力や病態によって「標準」が当てはまらず、個別かつ正確な判定が必要なことが少なくありません。
「効果的な運動」の強さを正確に測定する方法があります。心肺運動負荷試験(CPX)という検査で、運動耐容能(体力の限界)や有酸素運動のレベルのほか、運動時の虚血発作の検出、息切れの原因精査など、さまざまなことが分かります。ハートセンターで心臓リハビリテーションを受けられる患者さんには、できる限り正確な体力の測定を行って、個別・具体的に適正な運動量・強さなどを提案しています。この方法については、いずれご紹介したいと思います。
■心臓リハビリテーションを受けるには
狭心症、急性心筋梗塞後(回復期)、慢性心不全、大血管疾患(大動脈瘤、大動脈解離等)、閉塞性動脈硬化症、心大血管手術後の患者さんで、一定の条件を満たした方の心臓リハビリテーションには、医療保険が適用されます。心臓リハビリテーションを受けるには医師の診断と許可が必要です。ハートセンターの外来にてご相談ください。