心臓リハビリテーション部門
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2019.9.1
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“休養不足”に陥っていませんか?
心臓を長持ちさせるための休養とは

5月のコラムで「睡眠負債」について取り上げたところ、意外に反響が大きかったようでした。それだけ、睡眠がうまく取れない人が多いということでしょうか。厚生労働省の調査でも、睡眠で疲労が解消しない人が増えているという結果が出ています(図1)。

図1

睡眠の障害は疲労の蓄積に繋がり、ひいては心血管リスクを高めることが知られています。今回のテーマは、“疲労と回復”です。

♥ 疲労とはなにか

日本疲労学会では、「疲労とは過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である」と定義されています。1)

疲労は、「心身への過負荷により生じた活動能力の低下」のことを言い、思考能力の低下や、刺激に対する反応の低下、注意力の低下、行動量の低下などを引き起こします。“疲労”という感覚は、痛みや発熱とともに、からだが発する“三大アラート(警告音)”のひとつといわれ、からだが正常な状態を保てなくなる危険信号です。

疲労には、肉体的な疲労の外に、精神的な疲労や神経的な疲労があります。

  • 肉体的な疲労は、“末梢性疲労”
    スポーツでカラダを酷使した後であっても心地よさを感じることがあるでしょう。これが末梢性疲労と呼ばれるものです。肉体的な疲労は筋肉や各臓器、組織を構成し、働かせるための材料となる物質やエネルギー(燃料)が枯渇した状態です。エネルギー不足では十分なパフォーマンスを発揮できません。
    筋肉を使いすぎると、老廃物や疲労物質が過度に蓄積します。それが筋肉のだるさや張り感となってあらわれます。逆に、全く動かさないでいると筋肉は硬直し、やがて委縮します。こうなってからいざ動かそうとすれば、さらに疲れやすいからだになってしまいます。
    筋肉だけでなく内臓も、酷使することにより機能が低下し、疲弊します。筋肉に比べて内臓の疲弊は表に出るのが遅く、自覚症状がないまま重症化することも少なくありません。
  • 精神・神経の疲労は、“中枢性疲労”
    一方で、カラダは酷使していないのに長時間続く会議など、ストレスや緊張状態が続くことで、ぐったり疲れてしまうことがあります。これが、中枢性疲労。視神経や脳が緊張した状態が続くことによって起こる、頭の疲れです。人間関係や悩み事などのストレスの増加、またパソコンやスマートフォンの普及により、現代人が晒されているリスクです。からだの疲れとは別に、脳内の活動が活発になることにより大量の活性酸素が生じ、酸化ストレスと言われる状態になります。活性酸素が一定量を超えると、疲れやだるさを感じるようになります。

♥ 疲労の原因は交感神経酷使、脳の自律神経中枢のダメージ

以前は、運動すると筋肉中に増える乳酸が疲労の原因と長らく考えられてきました。しかし、近年では乳酸原因説は否定され、むしろ乳酸は筋肉の活動を促進する有用な成分と考えられています。乳酸に代わり疲労の原因とされているのが、“脳の自律神経中枢へのダメージ”です。体のバランスを維持する自律神経を酷使した結果、神経細胞が活性酸素による酸化ストレスで破壊され、疲労が起こるといわれます2,3)

自律神経が活発に活動すると、酸素が多く消費されるとともに活性酸素も多量に発生します。活性酸素を分解して体内から除去する抗酸化酵素が働きますが、活性酸素の量が大量になると除去が追いつかなくなります。過度の運動や精神的ストレスは自律神経のバランスを崩し、活性酸素の量を大幅に増やすとされています。加齢や紫外線、睡眠障害や睡眠時無呼吸症候群も、活性酸素を増やし疲労を蓄積させる原因です。

事項では、疲労を予防し、回復を早めるための具体的な方策を考えてみます。

もっと知りたい方へ

疲労蓄積を予防し、次の活動に備えるための、“休養”

■ 肉体疲労よりずっと恐ろしい?脳の疲労

疲労は筋肉や内臓のはたらきに支障を来すだけではありません。自律神経系、内分泌系、免疫系といった、からだの各組織がスムーズに連携するための調節機構の不具合が深く関わっています。たとえば、脳が緊張している間は、交感神経の働きにより内臓や筋肉が働き続けているため、身体へも疲れがたまっていきます。また、身体や脳の疲れは自律神経のバランスを乱し、精神状態にも影響を与えます。

筋肉の疲労はいわゆる末梢性疲労で、十分に栄養を摂ったり、しっかり休養したりすればほとんど回復します。一方、脳の疲労は中枢性疲労で、パソコンやスマートフォンよる目や背中、腰などの身体的負担に加え、人間関係やトラブルなどによる精神的緊張、社会的な要因など複雑な背景があり、解消は容易ではありません。とはいえ、脳の疲労を放置していると、身体的・精神的な障害だけでなく、自律神経、免疫やホルモンなどを正常に維持するシステムのバランスまで崩れていきます。

図2

図2のように、疲労は免疫機能の低下も引き起こします4)。元気な時には免疫に押さえつけられていたウィルスや細菌がここぞとばかりに体内で活発になり、風邪がいつまでも治らなかったり、胃腸炎や帯状疱疹が持続したりします。本来は体内で免疫を助けるはたらきをするはずの炎症性サイトカインと呼ばれる物質が、“悪玉”になって逆に細胞を傷つけることもあり、更に疲労が続いてしまうのです。やがては心不全やがんなどの重篤な疾患のリスクにつながることもわかっています。

■ 休養は、次の活動のための準備段階

疲労はこじれる前に、すっきり解消しておくことが大切。休養がうまく取れないと、心身の疲労が蓄積したまま、継続的にパフォーマンスの高い仕事や生活を保つことができなくなります。前述のように、休養不足は臓器や組織の故障だけでなく、免疫やホルモン、自律神経系などの調節機能も奪われ、病気やけがに繋がりやすくなるといわれています。休養により、ヒトは自律神経を整え、ホルモンバランスを改善し、免疫機能を回復させます。休養には、日頃の活動(仕事や運動など)に伴う心身の疲労からの回復を促す(“癒す”)側面と、次の活動へのエネルギーを充足させる(“養う”)側面とがあります。

休む、というとネガティブなイメージをもつ日本人が多いですが、休養は決して消極的なものではなく、むしろ次の活動のための準備段階と考えていただきたいと思います。

■ 生活習慣を見直して慢性疲労から抜け出す

  • 疲労回復に効果的な栄養素
    • ・ビタミンB1:豚肉、うなぎ、小麦胚芽、大豆、ピーナツなどに多く、疲労回復のビタミンと言われます。糖質の代謝を促進しエネルギーに変換します。精神的に安定させ疲労感の改善に効果があります。
    • ・たんぱく質:(魚・肉類、大豆、卵、乳製品に多い) 疲労した筋肉を修復します。疲労で低下した免疫力向上させる免疫細胞を作る働きもあります。鶏の胸肉やマグロやカツオの尾びれに近い筋肉に含まれるイミダゾールジペプチドは、酸化ストレスを軽減できる抗酸化作用を有しています。
  • 適度な運動で副交感神経優位に
    筋肉に負担をかけすぎないよう、正しい姿勢を心がけましょう。デスクワークなどでずっと同じ姿勢でいると、下半身の血流が滞って疲労物質がたまりやすくなります。こまめに水分を摂って数分でよいので、1時間に最低1回は意識して歩くようにしましょう。また、消耗するほどの強い運動はかえって交感神経を過度に活性化させるため疲労を助長します。適度な有酸素運動は副交感神経優位な状態を作り、からだをリラックスさせることができます。週2-3回は30分程度のウォーキングを行うことがお勧めです。
  • 紫外線から目を守る
    紫外線が目から入ると自律神経が疲れます。屋外ではUVカット仕様のサングラスや日よけ帽、日傘などを使いましょう。
  • ぬるめのお風呂で快眠を
    質のよい眠りを得るためには、就寝1時間ほど前にぬるめのお湯に5~10分くらい入るのがよいとされます。体の深部体温を上げることで血流がよくなり、就寝時には深部体温が下がって質のよい眠りを得やすくなります。熱い湯はかえって自律神経を疲れさせるのでNG。
  • 就寝前の音楽や読書は、自分の好きなものを
    寝る前に好きなアーチストの音楽を聴いたり心の支えとなる本を読んだりすることで、副交感神経優位になり頭もリラックスできることもあります。ただし、元気が出る音楽や映像や大きな音は、脳を活性化してしまうため、避けましょう。

参考文献:

  1. 日常生活により問題となる疲労に対する抗疲労製品の効果に関する臨床評価ガイドライン.日本疲労学会作成(平成23年7月22日)
  2. Biol Psychiatry 2009: 15; 344–8
  3. 日本生物学的精神医学会誌24(4):200─210, 2013
  4. 危ない!『慢性疲労』」倉恒弘彦 井上正康 渡辺恭良 著 生活人新書 NHK出版