心臓血管外科

2008年10月に開院してから10年が経過し、心臓手術の総数は2300例を超えました。2012年から年間心臓手術数は毎年200例を超え、2018年度には年間心臓手術数は300例を突破、327例に達しています。これもひとえに、患者様やご紹介いただいた先生方、関係者の皆様のご支援の賜物と感謝申し上げます。

当院の心臓血管外科では、成人の心臓病・大血管を扱っています。代表的な冠動脈バイパス術、弁膜症手術、大血管手術に加え、成人の先天性疾患(修正大血管転位症、右室二腔症、バルサルバ洞瘤破裂、三心房心など)やエホバの証人など、特殊疾患の患者様も数多く来院されます。

また、かつて他院で手術を行い再手術が必要になった患者様も多く来院され、約200例の再手術を手がけております。一般に、再手術は癒着剥離という操作が必要なため(傷が治る際に周りとくっついてしまうことを“癒着”といい、それをはがす操作を“剥離”といいます)、手術の危険度が上がりますが、当院では再手術におけるノウハウを蓄積して良好な成績を残しており、学会でも取り上げられました。

当院での心臓手術のうちわけは以下のようになり、弁膜症疾患が多いのが特徴です。 以下に、当院での心臓手術の内容をご紹介します。

手術割合

冠動脈バイパス術

心臓自身を栄養する血管が詰まる・狭くなる病気(心筋梗塞・狭心症)に対して行う手術が冠動脈バイパス術です。特に、人工心肺を用いないで行うバイパス術を“心拍動下(オフポンプ)冠動脈バイパス術”と呼び、天皇陛下が受けられた手術がこれにあたります。

当院では開院以来、単独冠動脈バイパス術に対しては全てオフポンプを第一選択としています。

人工心肺を用いないことにより、人工心肺に伴う体の負担・合併症を減らすことができると考えています。グラフトデザインを熟考し、短期成績のみならず、長期間安定するバイパスを心がけており、好評を得ています。

弁置換術・弁形成術

当院で最も頻度の多い手術の一つが弁膜症疾患に対する弁置換術や弁形成術です。

心臓には4つの部屋があり、各部屋の出口には弁がついていて血液を一方通行に効率よく流れるようにできています。この弁が壊れて逆流したり(閉鎖不全症)、狭くなって血液が通りにくくなる(狭窄症)病気が弁膜症です。

David自己弁温存基部再建・David法大動脈弁狭窄症・閉鎖不全症に対しては人工弁に取り替える、弁置換術を行います。

人工弁を用いない大動脈弁形成や、自己弁温存の大動脈基部再建術も病態に応じて積極的に行っております。大動脈弁形成術・自己弁温存基部再建術は現在まで55例施行しております。(右図:自己弁温存基部再建・David法)形成術や自己弁温存が可能かどうかは、医師にご相談ください。

僧帽弁閉鎖不全症には、可能な限り自己の弁を温存する弁形成術を行います。弁形成術が不能な場合、人工弁置換術となりますが、当院では、弁置換術の場合でも腱索という組織を温存し、術後の心機能が保たれるように工夫しています。

開院当初より僧帽弁形成術に力を入れており、現在まで470例を超える症例を執刀しています。また、小さな創部から手術を行う右小開胸アプローチ法(MICS)を、東海地区でいち早く取り入れており、2018年からは3D内視鏡を用いた内視鏡MICSを行っております。僧房弁は心臓の深い位置にあるため、内視鏡を使用することで詳細な観察が可能となります

mpとmvp

また三尖弁閉鎖不全に対しても積極的に形成術を施行しており、現在まで300例以上の三尖弁形成術を行ってきました。中には、ペースメーカーによる三尖弁閉鎖不全も含まれており、無事に形成できています。

また、弁膜症の外科的手術に耐えられない患者様に対しては、SHDチームと綿密に連携し、カテーテル的に行う弁膜症治療(TAVIやMitraClip)を提供しています。

大血管手術

大動脈は心臓から血液を全身に運ぶための太い動脈です。大動脈がコブになって膨らんでしまう大動脈瘤と、大動脈の壁が裂けてしまう大動脈解離があります。いずれも人工血管に取り替える人工血管置換術が必要になりますが、特に大動脈解離の場合、発症から48時間で半分が亡くなるという致死率の高い病気ですので、緊急手術が必要です。迅速に対応する必要がありますが、当院は心臓専門病院であるため、緊急時のフットワークが非常に軽く、チームワークが優れているのが特徴です。

胸部大動脈手術では、頭(脳)への血流を確保しながら手術が必要となりますが、当院では中等度低体温・選択的脳循環法を用いて良好な成績を得ています。

また、従来の開胸手術(胸の中央を切って手術を行う方法)に加え、胸の皮膚をまったく切らないステント留置術(TEVAR)を取り入れており、良好な成績を得ています。どの方法が最適か、医師にご相談ください。

TEVAR 1,2

成人の先天性心臓疾患

先天性心臓疾患は幅が広く、子供のころに手術が必要なものから、成人になるまでほとんど無症状のものまで、非常に多くの種類があります。

成人になってから手術が必要になるものとして多いのは、心房中隔欠損症や心室中隔欠損症ですが、当院では現在まで約90例の成人先天性心疾患の手術をおこなってきました。中には修正大血管転位症や右室二腔症、バルサルバ洞瘤/破裂、エブスタイン、左室緻密化障害、三心房心など、大学病院でもなかなかお目にかからない疾患も手がけてきました。また、小児期に手術を受け、成人してから再手術が必要になった患者様(フォンタン手術後など)もいらっしゃいました。

小児の心臓血管外科も進歩が著しく、かつては救命不能であった症例も助けることが可能になっています。それに伴い、小児期に手術を受けた成人の患者数も増加しています。小児心臓手術の知識と成人心臓手術の技術を併せ持った“成人先天性心臓外科=Adult congenital Surgery”領域は、今後確立すべき専門分野の一つになってくるでしょう。当院では、それらを先駆け牽引できるよう、Adult congenitalにも力をいれています。

MICS(ミックス)手術について

心臓血管外科の手術では、胸の中央にある“胸骨”を縦に切って手術を行います。心臓全体を観察できるため、視野に優れ様々な疾患に対処できる、昔からの“Golden Standard”な方法です。

近年、この方法に加え、皮膚をなるべく切らない低侵襲手術(Minimally Invasive Cardiac Surgery:MICS)が開発され発展してきています。当院は東海地区でいち早くMICS手術を取り入れており、2018年からは3D内視鏡を用いた内視鏡MICSを開始しています。内視鏡は、奥深くの観察が容易になるため、視野の深い僧房弁疾患に対して最も威力を発揮します。

また、大動脈弁疾患に対しては、皮膚切開を脇の下に持ってくることで、正面からは傷が見えなくなるよう、工夫・改良しています。

TEVAR 1,2

当院では、胸骨は縦に切るが皮膚を小さくしか切らない“皮膚MICS”、胸骨の下2/3のみを切る”胸骨部分切開“、胸骨は全く切らずに肋骨の間から手術する”MICS法“と従来の胸骨正中切開を、症例・疾患ごとに使い分けています。患者様の安全を犠牲にしない範囲で、なるべく侵襲を少なくできるよう手術術式を考慮・実践しています。

ミックス手術が可能かどうかは、医師にご相談ください。

これからも地域の皆様に、また全国の皆様のお役に立てるよう、スタッフ一同いっそうの努力・精進を続けてまいりますので、これからもよろしくお願いします。

(文責・北村)