病気と治療方法

心臓の構造(冠動脈)

心臓

心臓をとりまく動脈は「冠動脈」といい、酸素や栄養素を含んだ血液を心筋に供給しています。 心臓が送り出す血液の5%(1分間に約240ml~260ml)が流れます。

心臓

冠動脈は、右冠動脈左冠動脈があります。さらに、左冠動脈は、左前下行枝左回旋枝に分かれます。

狭心症

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冠動脈が何らかの原因で狭くなると、心臓の筋肉へ血液の流れが悪くなり一時的に酸素不足になる病気です。 主な原因として、コレステロールや脂質が血管壁に沈着する動脈硬化があります。 また、何らかの刺激によって冠動脈がけいれんして細くなり(れん縮)、血液の流れが悪くなることがあります。

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正常な血管
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冠れん縮
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アテローム硬化

心筋梗塞

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狭心症などで狭くなった冠動脈が詰まってしまい、その先の血液の流れが止まって心筋の細胞が死んでしまう(壊死)病気です。 狭心症から心筋梗塞に進行する場合と、いきなり心筋梗塞が起こる場合があり、いずれも生命の危険が伴うため、早期発見・早期治療が重要になります。

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正常な血管
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血栓を生じ閉塞した血管

冠動脈疾患の治療

冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)の治療管理は生活習慣、つまり食事と運動による改善と同時に、医療措置などを組み合わせて行います。冠動脈狭窄・閉塞に対して医学的な治療法には薬剤の服用のほかに、経皮的冠動脈形成術や冠動脈バイパス術などがあげられます。

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経皮的冠動脈形成術(PCI)

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足もしくは腕の動脈からカテーテルを挿入し、大動脈を通過し、冠動脈まで進めての狭窄部の治療を行います。 この方法により手術で大きく胸を開くことなく、わずか数ミリの穴(傷)で治療ができます。 ただし、全ての虚血性心疾患の患者さんにPCIでの治療ができるわけではなく、開胸による治療のほうが適切な場合もあります。

PCI治療の種類

  • POBA(Plain Old Balloon Angioplasty):バルーンによる冠動脈拡張術
  • Stent(ステント):メッシュ状金属の留置術
  • Atherectomy(アテレクトミー):動脈硬化組織片(プラーク)切除術

※実際にはそれぞれが独立した術式ではなく、病変形態に応じて POBA + STENT、アテレクトミー+ POBA などを組み合わせて行っております。

バルーン血管拡張術
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バルーンカテーテルをガイドワイヤーに沿って冠動脈に挿入し、先端にあるバルーンを拡張して、狭くなった冠動脈を広げます。

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治療イメージ

Rotablator(ロータブレーター)
ロータブレーター

ダイアモンド・コーティングされたバーを超高速回転(約20万回転/分)させることで、非常に硬い病変(石灰化病変)を削ります。

※ロータブレータを実施するには年間PCI症例200例、冠動脈バイパス術30例以上の条件が必要です。当院は施設基準を満たしており、通常のバルーンでは治療が困難な高度石灰化病変にも対応しております。

冠動脈ステント留置術
治療イメージ 図
ステント
南都伸介・藤井謙司, メディアルファ, PCIの基礎知識、2007

冠動脈形成術後の再閉塞や再狭窄のリスクを低減させるための治療法です。 小さいメッシュ上の金属の筒(ステント)を冠動脈に留置して血管を保持し、再閉塞を予防します。留置後、ステントは冠動脈内に留まり血管を支え続けます。

PCI治療の問題点〜ステント内再狭窄とは?

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金属のみで作られたステント(ベアメタルステント:BMSといいます)での治療を受けた患者様の約3~4割程が、ステント治療の後に再び冠動脈の狭窄が起きていました。 かつてはベアメタルステントのみしかありませんでしたが、現在は、ステントからこの再狭窄を予防する薬剤を放出する、「薬剤溶出型ステント(Drug-Eluting stent :DES)」があります。

薬剤溶出型ステント (DES : Drug Eluting Stent)

薬剤溶出型ステントは従来型金属ステント(ベアメタルステント:BMS)に薬剤とポリマーなどが塗布されています。ポリマーとは術前と術中に薬剤を保護する役割を果たし、ステント留置後にステントから溶出する薬剤の量と速度を一定に保つ働きがあります。 塗布された薬剤はステント内の再狭窄の原因となる、新生内膜の増殖を抑制する働きがあります。 この構造により、再狭窄を十分に抑制しながら治癒が促されることになります。

従来型金属ステントの断面
ステント断面
薬剤溶出型ステントの断面

当院でも再狭窄予防のため積極的に使用しており、病変形態などから最適な種類の薬剤溶出型ステントを選んで留置しております。

実際の治療

対象血管:左冠動脈前下行枝

実際の治療

  1. 治療前。石灰化を伴う高度狭窄により末梢まで造影されていない。
  2. ロータブレータによる切削。
  3. バルーンによる拡張後、薬剤溶出ステントを留置。
  4. 治療後。本来の冠動脈の走行が見られるようになった。

末梢動脈疾患(PAD)

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動脈硬化により足や腕の動脈が狭くなったり、つまってしまい血液が流れなくなることで、さまざまな症状を引き起こす病気です。主な疾患は閉塞性動脈硬化症で、こちらもカテーテル治療(PPI)が可能です。

ただし、全ての患者様で治療ができるわけではなく、内膜剥離術やバイパス術による外科治療のほうが適切な場合もあります。

末梢動脈疾患(PAD)の危険因子

加齢、糖尿病、喫煙、高血圧、高脂血症

  1. 70歳以上の高齢者
  2. 50~70歳でも喫煙歴や糖尿病がある
  3. 足の症状(間歇性跛行)がある
  4. 下肢血管検査で異常を認める
  5. 動脈硬化性疾患の指標である心血管リスクの評価が悪い場合


受診をお勧めします

末梢動脈疾患(PAD)の解剖学的特徴

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末梢動脈疾患(PAD)の治療戦略

  1. 危険因子(喫煙、高血圧、高脂血症、糖尿病)を減らすために、食生活、運動などの生活習慣を改善させる
  2. 抗血小板薬などの薬物療法
  3. 血管内治療もしくは外科治療による血行再建

※予防目的も含め、生活習慣の改善と運動が一番大切です

間歇性跛行

閉塞性動脈硬化症の主な症状として間歇性跛行は70-80%の方で認めます。具体的には、目的地まで歩いている途中で、足が痛くなり歩けなくなります。しかし、少し休むと回復するので病気と思わない方が多く存在しています。

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間歇性跛行をそのままにしておくと…
下肢閉塞性動脈硬化症患者(PAD)の死亡率
SEER Cancer Statistics Review 1973-1997
足のしびれや痛みのために歩けなくなる
運動量が減る
血管の内皮機能が低下する
動脈硬化の進行が早まる
心筋梗塞・脳卒中を起こしやすくなる
死亡

※5年死亡率はがんと同等もしくはそれ以上である!!

末梢動脈疾患(PAD)の検査

  • ABI 検査
  • 血管エコー検査
  • SPP (Skin Perfusion Pressure) 検査
  • CT/MR 検査

スクリーニングにはABIを用います。
四肢の4点で同時に血圧を測定し下記の式に当てはめ、異常値で疾患が疑われればエコーや CT 検査を行います。

末梢動脈疾患(PAD)の有病率

70歳以上もしくは、50~69歳で糖尿病もしくは、喫煙暦が10年以上の患者を対象

円グラフ

Alan T. Hirsch; Michael H. Criqui; Diane Treat-Jacobson; et al.
Peripheral Arterial Disease Detection,Awareness, and Treatment in Primary Care
JAMA. 2001;286(11):1317-1324

冠動脈疾患と末梢動脈疾患の関係

Cacoub P.Patrice et,al.
Cardiovascular risk factor control and outcomes in peripheral artery disease patients in the Reduction of Atherothrombosis for Continued Health (REACH) Registry Atherosclerosis June 2009 (Vol. 204, Issue 2, Pages e86-e92)

実際の治療

対象血管:両側腸骨動脈

実際の治療

  1. 治療前。両側腸骨動脈に狭窄あり。
  2. ステントを同時に留置。
  3. 治療後。狭窄が解除され血流が改善した。

重症下肢虚血(CLI:critical limb ischemia)


河原田修身先生 Clinical Today Vol.12
「Peripheral Cutting Balloon によるリムサルベージ」

末梢動脈疾患には主に無症候性、間歇性跛行、重症下肢虚血(CLI)の3段階の臨床症状がみられます。

CLI は動脈血流の著明な低下により、治療されないと安静時疼痛だけでなく、潰瘍形成、感染をきたし、広範囲に壊死が及べば下肢切断に至る病態で、PAD の1~3%程度を占めています。

下肢切断を受けた患者様は、2年後には30%が死亡し、15%が対側切断、15%が大腿部切断となり独立歩行できる方は40%しか残りません。