忍び寄る“サイレント・キラー”
この季節に頻発!アナタの命を狙う高血圧
高血圧は、脳血管疾患や虚血性心疾患、慢性心不全などあらゆる循環器疾患の危険因子であり、本人の循環器疾患の発症や死亡に対して大きな人口寄与危険割合を示し、他の危険因子と比べるとその影響は大きいといわれています1)。
♥ 高血圧症は静かに心臓や血管を傷つける
日本における高血圧症の人は、現在700万人と言われています。自覚症状がないことが殆どのため未治療の人も多く、実際には3000万人を越えると推定されています。高血圧は長期にわたると動脈硬化が促進され、脳血管障害や心筋梗塞、心不全など重大な病気を引き起こすリスクファクターとなります。
図1は、日本で行われている有名な「久山町研究」からの報告です2)。60歳以上で心血管疾患既往のない588人が1961~93年にエントリーされました。このグラフによると、140/90mmHgを持続して超えていると、脳卒中を発症するリスクが有意に上昇します。他の心血管系の病気のリスクも概ねこのようなパターンを示します。
♥ 血圧は日内変動している
血圧は、1日のうちでかなり変動しています。通常、副交感神経優位から交感神経優位へと自律神経のはたらきが入れ替わる早朝には上昇しやすく、日中は仕事や運動、作業、食事、排便等などにより変動しています。安静、リラックスする夜間には低下します。当然、その時の気分やストレスによっても変わります。日々の血圧を比較したい場合には、できるだけ同じ条件(時間帯、安静度など)で測りなさいといわれるのは、このためです。ある程度の“生理的な変動”は、生命活動において環境に適応するため必要です。しかし、度を超して上昇すれば、さまざまな病気を引き起こす原因となります。
♥ よくない血圧変動はこうして起こる
高血圧の要因には、遺伝や加齢など、自分ではどうにもならないこと以外に、日常生活における増悪因子がたくさんあります。
- 塩分の過剰摂取
人体は過剰の塩分を摂取すると、それを体外に排泄するために、血圧を上昇させます。高血圧では塩分を控えなさいと言われるのはこのためです。 - 肥満
肥満者はそうでない人に比べて、高血圧が2~3倍多いことがわかっています。肥満が解消されれば血圧が下がるとは限りませんが、他の心血管リスクを減らすためにも、減量は欠かせません。 - ストレス・緊張
ストレスにより交感神経の緊張が高まると、血管を収縮させ、血圧を上昇させます。 - 寒さ・気候の変化
夏と冬とで血圧は変わります。温度が高いと血管が広がり、血圧は下がります。寒いところでは血管が締まるため、血圧は上がります。冬は室内の温度と外気温の差が激しいため、血圧の変動が起こりやすい季節です。特に盲点となるのが、入浴時。浴室が暖かくても脱衣所が寒いお宅では、それだけ血圧の乱高下が起こりやすくなります。 - 喫煙
ニコチンは一時的に血圧が上がりますが、慢性的な血圧上昇作用はありません。ただし、本数がかさめばその分血圧が高くなる時間が長く、持続性高血圧に近づきます。 - 過度の飲酒
飲酒量が増えるほど血圧が高く、高血圧になりやすいことが分かっています。また、毎日飲む人やアルコール依存症の人が禁酒や節酒をすると血圧が下がるといわれています。日本高血圧学会は、1日のアルコール摂取量を30cc以下3)、具体的には、ビール大ビン1本、日本酒で1合、ウィスキーでダブル1杯までに抑えるよう、女性や体重の軽い人ではさらに少なくするよう、勧告しています。
もっと知りたい方へ
別名“かくれ高血圧”とも呼ばれる、仮面高血圧の怖さ
病院はいわば非日常的な環境のため、無意識の緊張感が生まれ、血圧は10mmHg程度上昇するのが普通です。しかし家庭血圧測定が普及するにつれ、逆に診察室でのみ血圧が安定し、家では高血圧が続く“仮面高血圧”という現象が注目され、“持続性高血圧”と同様に心血管リスクを上げることが分かってきました。
■診察室では安定する、“仮面高血圧”
図2は、測定環境によって高血圧の分類をした研究の結果です4)。外来・家庭血圧ともに高い場合は持続性高血圧、家庭では病院では高いが家庭では正常場合を白衣高血圧としています。その逆、家庭では高いのに病院では正常となるのが、“仮面高血圧”。白衣高血圧は、健康診断や病院の診察時に白衣を見ると一時的に血圧が上がる現象で、主に精神的な緊張がきっかけとなり交感神経が過度に緊張することが要因といわれています。一方、仮面高血圧には、様々な要因が知られています。
■発見されにくい、仮面高血圧(かくれ高血圧)
普段血圧が高いにもかかわらず、病院へ行くとリラックスしてしまい、血圧が下がってしまうため、発見されにくく、“かくれ高血圧”などとも呼ばれています。以下のように分類されます(図3)4)。
- 夜間の血圧上昇
からだをヨコにした状態(臥位)では、タテの状態に比べて心臓付近に血液が分布しやすいため、心不全や腎不全の患者さんでは水分貯留による負荷で血圧が上昇することがあります。また睡眠時無呼吸症候群、抑うつ状態、認知症、脳血管障害などがあると、良質な睡眠が取れなかったり夜間の自律神経のバランスが乱れたりして、血圧の上昇がおきやすくなることもあります。 - 早朝の血圧上昇
前日の深酒、寒冷、睡眠障害など、前日の夜から朝にかけての状態が深く関係しています。日中になると下がってしまうことがあり、診察室では正常血圧のため、患者自身で測っていなければ発見されません。 - ストレス下の血圧上昇
日中の職場や家庭のストレスが関連しています。精神的ストレスだけでなく、病気や怪我など他に身体的なダメージがあっても、血圧は上昇します。
■仮面高血圧では真の高血圧と同様、脳・心血管系のリスクが高い
図4を見てください。日本人1332名を平均10.2年間追跡した調査です。これによれば、正常血圧のリスクを1とした場合、仮面高血圧の人の10年後の脳・心血管リスクは2.13倍で、通常の高血圧の人のリスク(2.36倍)とほぼ同じくらいでした。白衣高血圧の人のリスクは、正常血圧の人と変わりありませんでした4)。仮面高血圧の場合には脳・心血管障害を起こす可能性が高いことから、最近では病院での血圧よりも家庭血圧を重視する傾向にあります。
昔は自宅で血圧を測る人はまれであり、血圧と言えば外来で医師が測定するのみでした。最近では、日々自宅で血圧を管理している人もたくさんいます。かくれ高血圧を見つけるだけでなく、自身のバイオリズムを知るために、これは大変よい傾向です。スマートフォンのアプリを使えばより簡単に血圧管理ができるため、自己管理する人が増えています。
病院や医師に過度に頼らず、自分のからだの状態を自分で管理する“セルフモニタリング”の習慣をつけましょう。
■血圧を下げる目標値
日本高血圧学会は、年齢や合併症の有無により異なる高圧目標を設定しています。表1を参考に、アナタの高圧目標を確認しましょう。
参考文献:
- Hozawa, et al. (NIPPON DA TA80) Hypertens Res 2007(30): 1169-75.
- Arima, et al: Intern Med 2003(163):361-6.
- 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」
- Obara, et al. J Hypertens. 2005 (9):1653-60.