心臓リハビリテーション部門
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2020.5.1
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“Stay Home(ステイ・ホーム)”でも、できる、身体活動
“NEAT(ニート)”を増やして、代謝アップを図ろう!

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国も地方自治体も国民の外出自粛を呼び掛けています。スポーツジムや公園などにも行きにくくなり、ストレスや運動不足を心配している方も多いことでしょう。

ハートセンターのリハビリテーション室も、感染拡大防止の観点から、通院での心臓リハビリテーションを休止しています。「適度な運動は心臓病患者にとって必要」とこのコラムで繰り返しお話ししてきた身としては、心苦しい限りです。

とはいえ、本格的な運動をしなくても代謝を上げ、健康を維持する方法はあります。これには、“NEAT(ニート(非運動性活動熱産生、Non-Exercise Activity Thermogenesis))”と呼ばれるカロリー代謝が深くかかわっています。

♥ NEAT(ニート(非運動性活動熱産生、Non-Exercise Activity Thermogenesis))とは

身体活動によるエネルギー消費には、水泳やジョギングなどの本格的な運動によるものの他に、家事や通勤など日常の活動の中で生じるものがあります。「しっかりとした運動ではなく、立っている姿勢を維持したり家事をしたりという日常生活の動きをする際に発生するエネルギー」のことを“NEAT(ニート(非運動性活動熱産生、Non-Exercise Activity Thermogenesis))”と呼びます。2017年2月のコラムで詳しくご紹介しましたが、自由に運動ができない今こそ、ニートを活用するときだと思います(ちなみに、“ニート”の綴りは“NEAT”であり、就学・ 就労していないことを意味する“NEET”ではありません、念のため)。

図1を見てください。標準的な人のエネルギー代謝の内訳は、生命を維持するための最低限の活動(安静時代謝)が60%程度、食事誘発性熱産生が10%程度、残りは身体活動によるもので、30%程度です1)。身体活動による代謝は積極的な運動によるものと非運動性身体活動に分けられます。この図から読み取れることは、「頑張って“運動”しなくても、“普段の活動”によってエネルギー消費を増やすことによりエネルギー代謝を上げ、健康を増進させることができる」ということ。

図1

ジムなどで本格的な運動をすること以外に、日常生活における普通の活動すなわちニートを増やすことが、メタボ対策の一つとして注目されています。Levineらはある論文の中で、立っているだけで安静時より20%、歩けば300%もエネルギー消費量がアップした、と述べています2)。また、肥満者と非肥満者を比べると、肥満者は日150分も座っている時間が長く、これは350kcal(ショートケーキ1個分!)に相当するとのこと3)。さらに、食べすぎて体重が一時的に増加したとしても、その分普段よりも活動的な生活をして“ニート”が増えた場合には、体脂肪量の増加は少なく抑えることができた、とも報告しています。

♥ 強い運動だけがよいとは限らない!1日15分の運動でも健康増進に効く

Wenらは、1日15分、もしくは週に90分程度の軽い運動だけで、死亡率のリスクを少なくとも14%減少させ、全く運動しない場合よりも3年寿命が延びることを実証しました3) (図2)。

図2

運動強度が強いほど健康増進に繋がるというわけでありません。このことは多くの科学的なデータが実証しています。特に心臓病のひとにとって、運動強度が強いほど健康増進に繋がるというわけでありません。過度の負荷が命取りになりかねないことは、多くの科学的なデータが実証しています。心臓病のひとやもともと体力の弱った人(フレイルティ、虚弱)にとって、軽い運動でも予後を改善するという報告は非常にありがたいですね。

もっと知りたい方へ

座りっぱなしを減らして、“ニート”を増やすコツとは

食塩の過剰摂取は、高血圧の発症、重症化はもとより脳卒中、心臓病、腎臓病などの要因となり、健康寿命を脅かします。

■ “座りっぱなしが死を招く(Sitting is Killing You)!”

以前、このコラムで“座りっぱなしでいることが様々な身体的リスクを招く”ことをご紹介しました(2016年11月)。復習のつもりで、振り返ってみましょう。

  1. 1日に6時間座っていると死のリスクが40%増大する:1日に6時間座る生活を続けていると、たとえ日常的に運動をしていたとしても1日に3時間しか座らない生活の人に比べて15年以内に死ぬ確率が40%増えるとのこと。リスクを回避する方法はただ一つ、「座る時間を減らすこと」。
  2. 太っている人はやせている人に比べ1日に2時間半長く座っている:座っているときはほとんどエネルギーを消費せず、必然的に肥満になりやすくなります。
  3. デスクワーク中心の人は立ち仕事中心の人に比べて心血管リスクが2倍、また糖尿病のリスクが上昇。
  4. 1日に3時間以上座ってテレビを見ている人は、そうでない人と比べて心血管リスクが64%増加する。
  5. 長時間座ってテレビを見る時間が1時間伸びるごとに死亡率が11%増大。

座っている人すべてがこれに当てはまるかどうかは賛否両論あると思います。しかし、少なくとも活動の低下により使わない部分の筋肉量が減ってしまったり、筋膜の硬直が起こって柔軟性が低下し、動作緩慢やケガのもとになったすることは、容易に想像がつきます。

なるべく座位行動を減らして、日常生活活動を積極的に行うことが、健康増進の第一歩ともいえます。

■ まずは立ち上がろう!今こそNEAT(ニート)を増やして健康増進を

ニートを高めるには、まず座位行動をやめて、立ちましょう!(図3)

図3

立っているだけでも、代謝を上げることができます。そして、できるだけ細やかに動くことです。

具体的には、以下のようなことに気をつけましょう。

  • ごろ寝でテレビは見ない
  • 電車中では空席があっても座らない
  • バスや車などを使わず歩く。
  • エレベーター、エスカレーターの代わりに階段を使う。
  • パソコンに向かうときは常に背筋を伸ばす。
  • 家事や歯磨きの際につま先立ちなどを行う。
  • ガーデニングをする。
  • ミーティングは立って行う。

どうです?ジムに行かなくても、ジョギングしなくても、こうした行動を心がけることで代謝が上がり、肥満の防止や動脈硬化の予防にもつながるのです。外出できないことを理由にせず、できることから始めてみませんか。

参考文献:

  1. 厚生労働省.生活習慣病予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット
  2. Levine JA, et al. Interindividual variation in posture allocation:possible role in human obesity. Science 307: 584-586,2005.
  3. Wen, et al. Minimum amount of physical activity for reduced mortality and extended life expectancy: a prospective cohort study. Lancet. 2011;378(9798):1244-53.
  4. “Office Ergonomics: Why Sitting Will Kill You”(http://www.magicalrobot.org/BeingHuman/2011/03/office-ergonomics-why-sitting-will-kill-you)