心臓リハビリテーション部門
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2021.2.1
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“ウインター・ブルー(冬季うつ)”
気のせいではなかった! 冬に気分が落ち込む理由とは

冬になると気持ちが落ち込んでやる気が起きない、という人はいませんか。これは「季節性情動障害」とか「季節性感情障害」といわれるもので、「冬季うつ(ウインター・ブルー)」とも呼ばれています。これは決して気のせいではなく、体内で起こっている、れっきとした“不具合”です。

♥ 冬季うつ(ウインター・ブルー)とは

晩秋から冬にかけて悲しく憂鬱な気分になり、以前は楽しみだった活動に興味がわかず、疲労感が募り、無力感や罪悪感にかられる・・・このような季節性の抑うつ気分が、「冬季うつ(ウインター・ブルー)」です1)。女性や若年者に比較的多いとされ、我が国の一般人口を対象に行なった調査においては、2.1%に疑われたと報告されています2)。またうつ病の人の10-20%が冬季うつを経験するともいわれています。冬季うつの特徴は、「過食」、「過眠」そして「体重増加」。食欲不振や不眠になることが多い一般のうつとの大きな違いです(表1)。

表1

♥ 足りないのは「光」! 冬季うつ(ウインター・ブルー)が起こるメカニズム

なぜ冬季うつは起こるのか?これには日照時間が大きく影響しています。図1は、季節によるセロトニン分泌量の変化を表しています3)

図1

冬は健常人でもセロトニン分泌量が減ることがわかっています。日照時間が短くなると、体内時計をつかさどるメラトニン分泌のタイミングが遅れ、また脳内神経伝達物質のセロトニンやドーパミンなどモノアミンが減少し、抑うつを引き起こしやすい傾向になります。こうした変化に敏感な人は、通常の人よりもウインター・ブルーに陥りやすい特性があります。

冬になると、朝は布団から出られず、つい長く寝てしまう。また寒い時期には炭水化物や甘いものが食べたくなることも。これらは寒さのせいと思われがちですが、実は日照時間が短いことが影響しているのです。冬季うつは北欧など冬に日照時間が極端に短くなる高緯度地域に多いとされています。日本でも北国に多く発症します。春が近づき日照時間が長くなると症状は自然に治ります。

♥ 冬こそ、“明るく”過ごそう! ウインター・ブルーを防ぐには

①積極的に光を浴びる

最も効果的なのは、いうまでもなく自然の光により多く当たること。図2は、環境による明るさの目安を表しています4)

図2

10,000ルクスの光であれば1時間程度浴びるのが効果的とされています。冬は特に、晴れた日に屋外に出て陽の光を浴びましょう。曇り空でも10,000ルクスの照度が得られます。屋内なら、できるだけ明るい光を得られる南や東側の部屋がベター。人工的な照明だけでは不十分ということがわかるでしょう。じっと動かずに人工光を浴びるよりは屋外に出て体を動かす方をお勧めします。なお、冬季うつの治療として、「光ボックス」という人工光を使用して光を浴びる方法もあります。これは1~2時間程度、2,500~10,000ルクスの高照度の光を照射するというものです。

②規則正しい生活をする

冬季うつには「体内時計」の乱れも深く関係しているといわれています。日照時間が短くなる冬は、どうしても「時差ぼけ」のような状態に近くなります。できる限り就寝時間・起床時間を決めて、リズムのよい日々を送るように心がけましょう。

③トリプトファンを多く含む食事を摂る

肉、魚、大豆などのタンパク質にはセロトニンの生成に必要な必須アミノ酸のひとつ、「トリプトファン」が多く含まれています。冬こそ、意識して摂るようにしましょう。またビタミン、ミネラルなどの栄養素を十分に摂取することが大切です。

④有酸素運動を取り入れる

ウォーキングなど一定のリズムで行う適度な有酸素運動は、セロトニンの分泌を促すほか、交感神経活性を抑え、回復と癒しの神経である副交感神経を優位にすることがわかっています。

もっと知りたい方へ

アナタは大丈夫? リスクをチェック

■ アナタは冬季うつではない? 簡単にチェックしてみましょう

冬季うつ、もしくは季節性情動障害について、簡単に自己診断する質問票が開発されています。これは “Seasonal Pattern Assessment Questionnaire (SPAQ)” と呼ばれ、アメリカの精神科医とその仲間が開発した公式の質問票です5)。現在も広く利用されています。一般の人でもインターネットからダウンロードでき6)、気分や睡眠の季節変動の大きさを簡単に知ることができます。表2に、その一部を抜粋して掲載しました。

表2

合計点が7点以下であれば季節変動が「正常範囲内」、8点~11点であれば「冬季うつの前段階」、12点以上は「冬季うつの可能性がある」とされます。アナタもぜひ一度確認してみてください。

■ コロナ禍で上がるウインター・ブルーのリスクに立ち向かう

この冬は新型コロナウイルス感染拡大による在宅勤務などで、こもりがちな日々が続いています。人との直接的なつながりも薄れてしまいがち。しかし、孤独は不安や抑うつ気分を悪化させます。ただでさえウインター・ブルーに陥りやすい人にとっては例年以上に厳しい冬です。

そんなときに重要なのが、大切な誰かとつながりを持つこと。「社会的なつながりや支援があるという感覚が、抑うつ気分を改善させる第一歩といわれます。直接会えなくてもZoomなどのオンラインサービスの活用は有効です。もちろん、電話やSNS、手紙など、あらゆる手段を用いて、繋がっていることが大切です。

また、ネガティブな情報を絶えず目にしていると、心を休めることは難しくなり、ポジティブな気分を生むことはできないでしょう。例えばニュースをチェックするのは1日に2-3回と決めるのもひとつです。さらに、テレワークが増えた人や出かける機会が減った人は、少しでも屋外に出る機会を作りましょう。人混みや密を避けながら、1日に1回外に出て、20分程度歩くだけで、驚くほど効果があります。日光を浴びることに加え、からだを動かすことでホルモンや自律神経のバランスが整ってきます。

ウインター・ブルーはどんな人でも陥る可能性があります。特にコロナ禍の冬、リスクを少しでも減らすよう、できることから始めましょう。

■ 幸せを運ぶ脳内神経伝達物質、セロトニン

最後に、セロトニンについて少し詳しく。

セロトニンは、必須アミノ酸の一種である「トリプトファン」から生合成される脳内の神経伝達物質のひとつです。俗に「幸せホルモン」と言われています。視床下部や大脳基底核・延髄の縫線核などに高濃度に分布し、他の神経伝達物質であるドパミン(喜び、快楽など)やノルアドレナリン(恐怖、驚きなど)などの情報をコントロールし、精神を安定させる働きがあります。抑うつ状態は、セロトニンなどの脳内の神経伝達物質や受容体、神経細胞の働きが悪くなることにより発症するものと考えられています。

セロトニンを材料にして「メラトニン」というホルモンが合成されます。このメラトニンは睡眠ホルモンとも呼ばれ、朝日を浴びると分泌が減少し、夜になると増加します。セロトニンは逆に、朝日を浴びることで分泌が増えるといわれています。トリプトファン、セロトニン、メラトニンなど合成サイクルが良好に回っているときには、よい睡眠とともに安定した気分を作り出すことができます。

参考文献:

  1. Cools O, Hebbrecht K, Coppens V, et al. Pharmacotherapy and nutritional supplements for seasonal affective disorders: a systematic review. Expert Opin Pharmacother (11): 1221–1233;2018
  2. 三島和夫(2016)『臨床精神医学』第45巻増刊号,p.178-180,アークメディア
  3. Lambert, et al. Lancet 2002
  4. 三島和夫. https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20150107/430923/?P=4
  5. Melrose, et al. "Seasonal Affective Disorder: An Overview of Assessment and Treatment Approaches". Depression Research and Treatment. 2015 (ID 178564): 1–6.
  6. Seasonal Pattern Assessment Questionnaire (SPAQ)
    http://www.scalesandmeasures.net/files/files/SEASONA%20PATTERN%20ASSESSMENT%20Questionnaire.pdf