心臓リハビリテーション部門
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2021.4.1
58

過度の引きこもりが招く、将来の健康リスク
「ポスト・コロナ禍」のために、活動性を維持する習慣を!

春本番ですね!でも未だ新型コロナウイルス(COVID-19)が心配と、家の中に閉じこもっている人も少なくないと聞きます。しかし、ウイルスは本来「ヒトにくっついて」動くもので、空気中に漂っているわけではありません。空気が動いている屋外で、密を保ち、一定の距離を保ってからだを動かすことは、屋内でじっとしているよりもむしろお勧めと言えます。

♥ 健康寿命増進のための、国や学会からのメッセージは?

厚生労働省は健康情報サイトの中で、ウォーキングを『老若男女を問わず行うことが可能な動作の質や強度を考慮することによって、健康増進や生活習慣病予防のための運動』と位置付けています1)。ジョギングと異なり、文字通り常に地に足がついており、膝や腰の病気を抱えている人でもリスクは少なく、気軽に始められるという利点があります。身体活動と健康寿命に関する多くの大規模前向き観察研究(コホート研究)やシステマティックレビュー、メタ解析などをもとに、国民に勧める運動や生活の指針「健康日本21《第2次》」が策定されました。その中では、個人に対する指標とともに、「運動しやすいまちづくり・環境整備」といった自治体や地域の目標を定めています2)。図1・2に、資料を掲載します。

図1

図2

また、コロナ禍の2020年4月、日本運動疫学会では、『コロナ禍における外出自粛の要請にともなう身体活動不足や座りすぎによる健康被害を防ぐために、「人と人との距離を充分にとって実施する身体活動」を推奨します』という趣旨の声明を発表しました3)。自粛を「家の中でじっとしていること」と解釈し、極端な身体活動不足や長時間の座りすぎに陥っている人たちが多くいることから、活動低下による健康被害が強く懸念されています。

なぜ、コロナ禍でも運動することが推奨されるのか?それは、現在の活動低下が将来の生活習慣病のリスク、将来の身体機能の低下や認知機能低下などに直接響くことを懸念しているからです。

  • 生活習慣病のリスク軽減:心疾患や脳血管疾患など運動不足がもたらすリスクを極力減らす
  • 運動能力の維持・向上:骨の強度や筋力を保ち、バランス能力や柔軟性、持久力を維持する
  • メンタルヘルスを改善:うつ病や認知機能低下のリスクを軽減する

コロナ禍が去った後、「運動不足で寝たきりになった」では話になりません。「ポスト・コロナ」に向けて、適度な活動を維持しましょう。

♥ 新しい生活様式における身体活動のポイントとは

「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」では、「1日60分、元気に体を動かすこと」を奨励しています2)。通勤で歩くこと、階段を利用すること、屋内の掃除や庭の手入れをすることなどは身体活動(体を動かすこと)のひとつ。「新しい生活様式」における、さまざまな場面で活動的に過ごす工夫をしてみましょう。「1日60分」は連続した時間でなくてもかまいません。アクティブガイドでは、まずは、今より10分多く体を動かす「+10(プラス・テン)」を奨励しています。

次のことに注意し、マナーを守って体を動かしましょう。

  • 長時間の座りすぎをできるだけ減らし、できれば30分ごとに3分程度、少なくとも1時間に5分程度は、立ち上がって体を動かすようにしましょう。
  • 身体活動のための動画(You TubeなどのWEB配信等)やテレビ番組、ラジオ放送などを利用して体を動かしてみましょう。
  • 屋外で運動する時は、人に近づきすぎず、他の人が触れる場所にできるだけ触らないようにしましょう。

もっと知りたい方へ

どのくらいの運動が適しているの?

■ 活動強度の指標

日常の身体活動や運動の強さは、どのようにして測定されるのでしょうか。これについては「メッツ(Mets)」という、普遍的な基準があります。

メッツ(METs)とは運動や身体活動の強度の単位で、「Metabolic equivalents」の略です。運動強度は「酸素消費量」、厳密には「体重1kgあたり1分間に身体に取り込まれ消費される酸素の量(VO2(ml/kg/min))」を指標に測定されます。安静時(横になったり座って楽にしている状態)の酸素消費量は3.5ml/kg/分であり、わかりやすくするためにこの安静時の酸素消費量を1メッツときめています。メッツとは、安静時の何倍のエネルギー(体重あたり、1分間)を消費するかで活動の強度を示す指標です。表1に、日常の身体活動の強度の目安を掲載しましたので参考にしてください。

表1

■ 国が推奨する、身体活動量の基準(日常生活で体を動かす量の考え方)

「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」2)では、全世代に向けて「プラス 10(テン)」、つまり今より 10 分多くからだを動かすことを奨励しています。また、日々の身体活動強度の目標を、年代別に定めています。その抜粋を以下に記します。

  • 18歳~64歳:強度が3メッツ以上の身体活動を、23メッツ・時/週行う
    例えばウォーキングなら、軽く息が弾み汗をかく程度の運動(4メッツ)を週に6時間(24メッツ・時/週)。家の掃除などでもOK。生活のさまざまな場面で活動的に過ごしましょう。
  • 65歳以上:強度を問わず、身体活動を10メッツ・時/週行う
    横になったままや座ったままにならなければどんな動きでもOK。1 日 40 分、ゆっくりでもいいので体を動かすことを身体活動量の目標とします。人が少ない場所での散歩など、さまざまな場面で体を動かす工夫をしましょう。毎日、ラジオ体操やテレビ体操を行うことを習慣化するのもよいでしょう。

ここ数年の間に、高齢者でも運動耐容能が向上し、65歳未満にもひけをとらない体力の持ち主もいます。逆に、少し体力に自信のない人もいるでしょう。実年齢にとらわれず、自身の体力に見合った身体活動を心がけましょう。

図3、4に緊急事態宣言下の運動不足解消法 「生活アクティブ体操」(健康・体力づくり事業財団)の資料を示しました。将来の「生活習慣病のリスク」、「生活機能の低下のリスク」そして「メンタル・認知機能低下のリスク」を減少させるために、感染対策を行いながら、活動を増やしていきましょう。

図3

図4

参考文献:

  1. 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-080.html
  2. 厚生労働省 健康づくりのための身体活動基準2013
    https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpqt.pdf
  3. 日本運動疫学会 News & Information(2020年4月18日)
    http://jaee.umin.jp/doc/covid19.pdf
  4. 国立健康・栄養研究所 改訂版『身体活動のメッツ(METs)表
    http://www.u-gakugei.ac.jp/~hokekan/H27.12seikatukatudoumettu.pdf
  5. 緊急事態宣言下の運動不足解消法 「生活アクティブ体操」(健康・体力づくり事業財団)
    https://www.mext.go.jp/sports/content/000050043.pdf