心臓リハビリテーション部門
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2021.11.1
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見直そう。脂質の摂り方。正しい脂質摂取のススメ。

脂質というと摂りすぎてはいけない。などの先入観が働く方も多いのではないでしょうか。しかし、脂質は私たちの体内でとても重要な働きをしています。今月はそんな脂質の話に触れたいと思います。寒い冬に向けて動物たちはたくさんの脂質を蓄えて冬眠に備えます。生命を維持し、いざという時に助けてくれる脂質。脂質を正しく知って、良質な脂質を適正に摂る習慣を身に付けましょう。

♥ 体内での脂質の働き

2020年改訂の日本人の食事摂取基準1)によると、「脂質は水に不溶で、有機溶媒に溶解する化合物である2)」とされています。それではまずは脂質の働きについて紹介します。

  • 細胞膜やホルモンを作る材料になる
  • 体温を保持し臓器を守る
  • 脂溶性ビタミンの吸収を促す
  • 脳や神経系の機能を保つ
  • 免疫系や内分泌系などの細胞のレセプターになる
  • 身体を動かすエネルギー源になる

脂質を無駄に減らしてしまうと、このような働きができなくなるため、適度に摂取することが必要です。特に脂質1gあたりのエネルギー生産量は、炭水化物やたんぱく質に比べて2倍以上なので、きちんと摂ることで効率的なエネルギーの源になってくれます。脂質というと肥満や生活習慣病のリスクを連想しがちですが、人間は脂質を体内に蓄積することができる能力を備えていたからこそ、祖先は多くの飢饉や飢餓を乗り越えることができたと言われます3)。エネルギー貯蔵以外にも身体の調子を整える働きもあり、脂質はなくてはならない栄養素です。

♥ 脂質の種類とその役割

脂質といっても様々な分類・分類があります。脂質の種類によってそれぞれの働き、体内に及ぼす影響なども異なります。

図1

図1に示したように脂質は大きく分類すると単純脂質、複合脂質、誘導脂質に分けることができます。

単純脂質はアルコールと脂肪酸のみから構成されており、代表的なものに中性脂肪があります。この中性脂肪は主に体内では脂肪組織として蓄えられ、いざという時のエネルギー源になります。

複合脂質はリン酸や糖などを含んでおり、細胞膜の主要な構成成分です。また、体内での情報伝達の役割もしています。

誘導脂質は単純脂質や複合脂質から加水分解によって誘導された脂質です。代表的なものにコレステロールがあり、エネルギー貯蔵の他に身体の構成やホルモンの材料となる生理活性物質として働きます。

♥ 脂肪酸は脂質の構成単位

脂質の種類について述べましたが、私たちが普段口にしている食品中の資質や、身体に蓄えている脂質は分解すると脂肪酸になります。脂肪酸は化学構造や性質で分類すると、図2のようになります。

図2

飽和脂肪酸は動物の脂肪に多く含まれるため、動物性脂肪とも言われています。エネルギー源として使われますが、中性脂肪やコレステロールを上昇させる作用もあるので、摂りすぎは脂質異常症など生活習慣病の原因になります。飽和脂肪酸の融点は40℃ほどなので、室温では固体となります。霜降り肉やバターなどが固形であるのはそのためで、体温が36℃前後の人間の体内に入った時にも固体のままです。

不飽和脂肪酸とは飽和脂肪酸に比べて融点が低いので、常温でも固まらず液体です。そのため、体内に入った時も当然液体で消化吸収されていきます。不飽和脂肪酸の中でも一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸があり、一価不飽和脂肪酸の代表的なものはオレイン酸で、オリーブ油やなたね油があります。これらはコレステロールを低下させる作用があり、地中海食が心疾患に良いとされるのはこのためです。多価不飽和脂肪酸にはn-6系とn―3系があり、これらは体内で合成することができないため必須脂肪酸と言われます。n-6系の代表的なものはリノール酸で、ゴマ油や大豆油があります。コレステロールを下げてくれる働きがありますが、悪玉コレステロールと同時に善玉コレステロールも下げるので、摂りすぎには注意が必要です。一方、n-3系の代表的なものはリノレン酸で、エゴマ油や亜麻仁油、また魚に含まれるEPAやDHAが悪玉コレステロールや中性脂肪を低下させ、逆に善玉コレステロールを上昇する作用があります。

魚(特に青魚)が心疾患を予防する効果があるとされ、一時、鯖缶ブームとなって店頭から青魚の缶詰が消え、品切れになったことが相次ぎましたが、いずれにせよ継続して摂取することに意味があります。これから寒い時期に備えて、脂肪という肉布団をまとって身体を保護するためにも、魚などの“良質な油脂”を摂る習慣を身に付けましょう。

もっと知りたい方へ

バターVSマーガリン

バターとマーガリンを比較すると、エネルギーはほぼ同じで栄養価的には変わりません。バターはマーガリンに比べ、飽和脂肪酸である動物性脂肪酸の割合が多いとされていますが、実はマーガリンに含まれているトランス脂肪酸が身体に悪影響を与えるとして問題視されるようになりました。このトランス脂肪酸は水素添加によって植物油の化学構造を変化させて製造されます。植物性の油脂を用いるので構造は不飽和脂肪酸と似ていますが、性質はむしろ飽和脂肪酸に近いものになっています。植物油は通常は液体のはずですが、トランス脂肪酸に変化させることで固体になっていることからも、その(飽和脂肪酸に近い)理由が理解できます。

さらに厄介なことに、トランス脂肪酸は飽和脂肪酸よりも体内にもっと悪影響を及ぼすことも分かってきました。トランス脂肪酸は悪玉コレステロールを上げるだけでなく、善玉コレステロールを下げ、脂質異常症や動脈硬化を増加させると言われています。また、トランス脂肪酸の多い食事はインスリンの効きも悪くし、インスリン抵抗性が上がることで糖尿病のリスクも上がるとされます。

欧米諸国ではすでにトランス脂肪酸の使用規制などが設けられているようです。和食の多い日本ではそれほどマーガリンの使用量も多くなく、あまり明るみになっていませんが、“良質な脂質の摂り方”として知っておくと良いのではないでしょうか。

参考文献:

  1. 厚生労働省 日本人の食事摂取基準2020年
  2. Nelson DL, Cox MM. Lehninger Principles of Biochemistry (6 th Edition), Sixth Edition edn, vol. 10. Lipids W.H. Freeman and Company: New York, 2013
  3. 中屋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ3