心身の調和が壊れる前に!コンディションに合わせて選びましょう
「積極的休養(アクティブ・レスト)」と「消極的休養(パッシブ・レスト)」
文明の進歩とともに世の中の流れのスピードが増し、人類は昼夜を問わずビジネスや生活活動ができるようになりました。それに伴って休養・回復の時間が失われていることが、現代人の健康を脅かす大きな問題の1つとなっています。今回のテーマは、「適切な休養の取り方」です。
♥ 極度の疲労やストレスが心身の調和を壊す
自律神経には、からだを活動モードにする「交感神経」と、休養・回復モードにする「副交感神経」の2種類があります。仕事やスポーツなどで勝負に出るとき、トラブル回避の際などには、交感神経が強くはたらいて、血液循環や呼吸、代謝を上げて活動性を高めます。一方、副交感神経は、からだの各部分の活動性を下げ、次の活動に備えて回復、修復させるために働きます。また交感神経が優位になると、呼吸数や心拍数が上昇し、筋肉が緊張し、汗が分泌される一方、副交感神経が優位になると、心拍数、呼吸数、血圧が下がり、筋肉が弛緩します(図1)。
2つの自律神経はやじろべえのようにバランスをとっています。この「調和」こそが、心身の安定化のカギであり、パフォーマンスを上げるための大切なからだのしくみなのです。
しかしながら、現代は活動量の増加に休養・回復の時間が追いついていない状況が往々にして見受けられます。交感神経優位をリセットするだけの副交感神経優位の時間帯が削られてしまっているのです。結果として、心身の不調和に苦しむ人も増えています。
♥ 「積極的休養(アクティブ・レスト)」のススメ
最近では、適度に体を動かすことにより疲労回復を早める「積極的休養(アクティブ・レスト)」を、厚生労働省が推進しています1)。平日に疲れが溜まったからと、休日にごろ寝をしてすごし、さらに疲れが増した経験はだれにもあるでしょう。これに対し、休日もからだをほぐすような適度な運動を取り入れるようにすると、全身の血流を促進させ、血液が筋肉から心臓に戻っていきます。筋肉が「補助ポンプ」として動くことで心臓のポンプ機能を助けるため、完全に横になっているときよりも疲労回復への効果が高まります。また、副交感神経の活性が優位となり、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンを分泌させることで、心のバランスを整えるはたらきが期待できます。
積極的休養は、もともとアスリートの素早い疲労回復を目的として考案されたそうです。心臓リハビリテーションの最後に行う整理運動(クールダウン)も、積極的休養の一つです。一般の人もぜひ取り入れて、メリハリのある生活を維持したいものです。
♥ 「消極的休養(パッシブ・レスト)」が必要なことも
積極的休養は活動性を一定程度維持しながら休養をとる概念ですが、高度の疲労を自覚したときにはしっかりとからだを休めて回復させなければなりません。家でごろごろしたり、入浴や読書などをしたりしてからだを動かさずにゆっくり休むことを、「消極的休養」と呼びます。真面目な人は、休日でもサボっていてはいけないとばかりについつい「適度」を超えた活動をしてしまいがちですが、ときには躊躇なく消極的休養をとらないと、疲労が蓄積して体内の「調和」が失われてしまいます。
とはいえ、消極的休養は長く続けるとかえって疲労感が蓄積され、疲れやだるさ、頭痛などが生じることもあります。これは、副交感神経優位の時間が長く続くことで心拍・血圧が低下し、疲労物質も体内に残りやすくなるためです。少し回復した時点で、積極的休養に切り替えることも大切です。
「積極的休養」と「消極的休養」、上手に使い分けて、日々のパフォーマンスを維持しましょう。
もっと知りたい方へ
自律神経の不調和から生じる、心臓神経症
■ 慢性疲労がさまざまな症状を引き起こす?!
日本疲労学会によれば、「疲労とは過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である」と定義されています2)。急性の疲労は通常睡眠や短期間の休息により回復します。ところが、何日休んでも回復せず、からだに異常が出てしまうことがあります。これが慢性疲労です。慢性疲労になると、しばしば本人に疲れているという自覚がないまま活動を続けてしまうことがあります。ストレスや疲労を認識することなく活動を続けると、心身の調和が徐々に崩れて、いわゆる適応障害や心臓神経症、メンタル不調などへの引き金となりかねません。
■ 疲労蓄積→自律神経失調→心臓神経症という負の連鎖
心臓神経症とは、心臓自体には異常がないにもかかわらず、動悸、息苦しさ、胸の痛みなどの症状を繰り返し自覚する状態をさします。ときとして手足のしびれや冷感、めまい、頭痛なども起こりえます。ただし、心臓が悪いわけではないので、検査をしても何も異常が発見できません。また命に関わることはありません。しかし、なぜ心臓が苦しいのだろうと考えるあまり、さらに不安が募るという悪循環に陥ってしまう患者さんもしばしばみられます。慢性的な疲労やストレス、緊張などによって引き起こされることが多く、社会的、経済的、身体・精神的なストレスに加え、最近ではコロナ禍も相まって、性別を問わず各年代にみられます。10代、20代の若い人たちや心肺機能が強いとされているスポーツ選手でも陥ることがあります。
心臓神経症の症状には狭心症を疑わせる胸痛を伴うことが少なくありません。そのため、循環器内科を訪れる人も少なくありませんが、専門医がお話を伺えばだいたい鑑別がつきます。さらに、胸部レントゲン、胸部CT、心電図、血液検査、心エコー、負荷心電図、冠動脈CTなど心臓、大動脈、肺、上部消化管などの検査を行い異常、心臓にはがないと確認することが必要です。 心臓神経症と狭心症の違いを、表1にまとめました。
■ 心臓神経症の治療
心臓神経症は自律神経の調和の乱れが発端ですから、ストレスを軽減し、疲労が過度に溜まる前にリセットを図ることが大切です。前項でお話ししたように、積極的休養(ウォーキングやストレッチなどの軽い運動)と消極的休養(入浴、睡眠など)を組み合わせて適切な休養を取ることが大切です。同時に生活習慣の見直しも効果的です。
- バランスの良い食事:できるだけ同じ時間に毎日3食、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
- 十分な睡眠:睡眠時間を確保するだけでなく、質の良い睡眠を心がけましょう。就寝や起床の時間は、なるべく一定にすることが大切です。
- 適度な運動:適度に身体を動かすことは体の血流を良くし、ストレスの解消にも役立ちます。
- ストレスの軽減:リラックスできる時間・幸せ感を感じられる時間を増やしましょう。
症状が強いときには、内服薬を用います。動悸が強い場合は、交感神経の影響を和らげるβ(ベータ)遮断薬、不安などの精神症状が強い場合には、安定剤などの内服などが検討されます。 自律神経障害も心臓神経症も、こまめに心身の疲労度をチェックし、早めにリセットすることが予防のカギです。
参考文献:
- 厚生労働省ホームページ 健康日本21(休養・こころの健康 ):休養・こころの健康
https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b3.html - 日常生活により問題となる疲労に対する抗疲労製品の効果に関する臨床評価ガイドライン.日本疲労学会作成(平成23年7月22日)