心臓リハビリテーション部門
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2023.6.1
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その疲れ、貧血が原因かも!正しく知って貧血対策

6月になり暦ではすっかり夏です。急に気温が上がるとバテやすくなったり、疲れやすくなったりと、何かと体の不調を感じるものです。そのような時はだいたい「夏バテの始まりかな」とか「運動不足かな」と思いがちです。
しかし、もしかするとそれは栄養不足による体調の変化かもしれません。

特に暑くなって汗をかくようになると、体のミネラル分も消耗します。ミネラルといわれる微量栄養素には鉄も含まれ、その鉄の喪失で貧血に…。そして疲れやすく…。ということにもなりかねません。

夏本番前にしっかりミネラルを補給する意味でも、貧血について振り返ってみましょう。

♥ よく耳にする貧血。実は血液疾患です

貧血は赤血球に含まれるヘモグロビンという血色素濃度が低下した状態をいいます。世界保健機関(WHO)基準では、Hb濃度が成人男子は13.0 g/dL未満、成人女子や小児は12.0 g/dL未満、高齢者については男女とも11.0 g/dL未満を貧血と定義し、貧血は赤血球の異常が原因の血液疾患といえます。

ヘモグロビンは体のすみずみに酸素を運搬、供給する働きを担っており、活動するエネルギーを産生する役割があります。なので、ヘモグロビン濃度が低下すると酸素や栄養の供給量が低下し、体は酸欠状態になるので、少し動いただけで息切れがするなどの症状が出現します。しかし、貧血はゆっくり進行していくと症状を感じにくくなり、気付いたころには慢性的な貧血や重度な貧血になってしまうことにもなりかねません。貧血は様々な原因によって起こり、貧血の種類もいくつかありますが、最も多いのが「鉄欠乏性貧血」です。そして、ヘモグロビンの構成成分は鉄なので、体内の鉄が不足すればへグロビンの生成も減少し貧血になってしまいます。

♥ 貧血になると心臓にも負担がかかる

貧血を放置していると、心臓にも負担をかけることになります。貧血でヘモグロビンが少ない状態でも体には必要な酸素を運搬しないといけません。酸素の運び屋であるヘモグロビンが不足している状態を代償するために、心臓は心拍数を上げて心拍出量を上げ、全身に送る血液量を上げようとします。つまり、より多くの血液を循環させることで酸素不足を解消しようとしている。ということです。心拍数を上げるということは、それだけ心臓の仕事量を増やしていることになるので、心臓に負担をかけていることにつながります。実際に心不全においても貧血が原因で心不全が増悪したり、心不全が貧血を悪化させることが報告されています1)。また、より多くの酸素を取り込もうとして呼吸数も増えるので、肺にも負担をかけてしまいます。

図1に貧血の症状についてを示しましたが、貧血と心不全の自覚症状は共通するところがあることがわかります。

図1
図1 貧血の症状

♥ 具体的な貧血対策は?

貧血の予防や改善のために普段の食生活の見直しをし、食品から十分な鉄を摂ることがポイントになります2)。しかし、鉄は不足しやすいミネラルの1つである上に食品からの吸収率が低く、体内で貯蔵しておくことができないうえに代謝によって損失するため、毎日の食事からしっかり補うことが必要であることがわかります。

食品中に含まれる鉄には“ヘム鉄”と“非ヘム鉄”があり、ヘム鉄は動物性食品に多く含まれ、非ヘム鉄は植物性食品に多く含まれているのが特徴です。それぞれの吸収率はヘム鉄が20%前後で、非ヘム鉄は5%前後と低く、先に述べたように余分に摂ってもその分は排泄されてしまいます。つまり、食べ貯めはできないということです。

このように鉄自体は吸収率が低いですが、食材の食べ合わせを工夫すると吸収効率が上がるとされます。図2にヘム鉄を含む食品、図3に非ヘム鉄を含む食品、そして図4に鉄吸収を促す食べ合わせについてまとめました。

図2
図3 ヘム鉄を含む食品
図3
図4 非ヘム鉄を含む食品
たんぱく質 鉄吸収を高める
ビタミンC 非ヘム鉄を吸収されやすい形に変える
酢・かんきつ類 胃酸分泌を上げ、吸収率を高める

図5 鉄吸収を促す食べ合わせ

せっかく摂った鉄を効率よく吸収するためにも、肉や魚を野菜と一緒に調理したり、新鮮な果物と一緒に摂ることを心がけましょう。

♥ 知っておきたい鉄吸収を妨げる食べ合わせ

食べ合わせは良いものもあれば悪いものもあります。鉄も食べ合わせによっては吸収を妨げてしまうものがあります。それを図5に示しました。

タンニン 体内で鉄と結びついて吸収を妨げる
シュウ酸
リン酸塩
フィンチ酸 鉄排出を促進してしまう

図5 鉄吸収を妨げる食べ合わせ

まず、タンニンはお茶やコーヒーに含まれる成分ですが、抽出液で摂取する分には鉄吸収には影響がないといわれます。つまり、普通にお茶を入れたり、コーヒーを落として飲む分には問題ありません。どうしても気になる方は、食事をした後、少し時間を空けてからコーヒーなどを飲むといいでしょう。次に、シュウ酸とはほうれん草などに含まれる成分ですが、下茹でをすれば流出してしまうので問題ありません。そして、フィチン酸とは玄米やふすまに含まれる繊維質のことです。これらに含まれる不溶性食物繊維を過剰に摂りすぎると、体の中を掃除するついでに鉄などのミネラル分まで一掃されてしまうという意味なので、通常に食事で摂取する分には心配ありません。

イラストただ、最も注意をしておきたいのがリン酸塩。リン酸塩は食品添加物のひとつで、スナック菓子やカップ麺、加工品に多く含まれ、体内に取り込まれた際にミネラル分である鉄などと結合してしまう性質があります。このリン酸塩は栄養にならないので体外に排泄されるのですが、その際に鉄なども道ずれになって一緒に排泄されてしまう、というわけです。そういった意味でも、カップ麺や加工品などは無駄に食べない方が良いことが分かるのではないでしょうか。

貧血対策には3食バランスよく食べること、鉄だけでなくたんぱく質やビタミンCを含む食品を摂ること、そして添加物の多い食品は避けること3)。そして日頃から適度に体を動かす習慣をつけて筋肉への酸素摂取能力を上げること。まさしく食事と運動。基本的なことですが、この心がけこそが貧血予防の一手であることは間違いありません。

参考文献:

  1. Oyama at, al. Anemia and heart disease in chronic kidney disease. Cardiol Jpn Ed Vol. 7 No. 3 201
  2. 厚生労働省 eヘルスネット「貧血の予防には、まずは普段の食生活を見直そう」
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-008.html
  3. 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「貧血予防に良い食事・食べ物・調理法とは」
    https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyou-shippei/hint-hinketsu.html