⑥手術適応・手術時期について
“健診などで心雑音を指摘された”、“かかりつけ医から心臓専門の病院を受けたほうが良いと言われた”など、無症状なのに心臓の病気を指摘されることがあります。
無症状なのに手術が必要な事はあるのでしょうか? 答えは“ある”なのですが、この“無症状”について考えてみる必要があります。
弁膜症の場合、症状が出にくいこともあるのですが、自分で知らず知らずのうちに活動制限をしていた・年を取ったのでこんなものだと考えていた、など、自分では無症状のつもりでも、心臓はダメージを受けている事があるのです。 また、大動脈瘤では自覚症状が出ないことが多いです。大動脈瘤は、血管がこぶのように膨らむ病気ですから、大きくなりすぎると破裂します。破裂してしまうと命取りになってしまうため、破裂のリスクが高まる大きさを超えた時点で、症状は無くとも手術をした方が安全なのです。
まずは専門の病院で、心臓の検査を受けましょう。心臓の弁の状態、心臓の大きさ、収縮力(心臓のポンプ機能)、大動脈の大きさなどを詳細に調べることができます。
我々心臓外科医は、傷んだ弁を修理したり取り替えたりすることはできますが、筋肉そのものを取り替えることはできません(心移植になってしまいます)。ですから、心臓の筋肉が、弁を治した後に元気に戻れる段階で手術をすることが重要なのです。
例えば、大動脈弁閉鎖不全症の場合、弁の逆流が重度でも心臓が大きくなって代償するため、症状が出にくいことがあります。しかし、ある一定の大きさを超えてしまうと、手術をしても心臓の機能が戻らなくなってしまうのです。別の例では、僧帽弁閉鎖不全症の場合、弁逆流が体と反対方向・左心房の方へと漏れます。左心房は体よりも血圧が低いため、心臓は楽に血液を送り出せます。見かけ上は心臓の動きが保たれているように見えるわけですが、いざ逆流が無くなると、実は心臓の動きが悪くなっていた、ということもありえます。
これらの事を考慮して手術適応をまとめた“ガイドライン”が海外でも日本でも作成されています。ガイドラインを参考にしつつ、患者様ひとり一人の状態を考慮に入れて心臓の検査を行い、手術が必要かどうかも含め、適切な手術時期を提示させていただきます。