心臓リハビリテーション部門
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2018.12.1
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心臓とって最も厳しい季節を乗り切る
冬に心血管リスクが上がるのはなぜ?

冬は、ハートセンターが一番忙しい時期です。寒さは、それ自体が心不全を悪化させる要因ですが、それに加えて、日本ではこの時期にリスクが高くなる特別な事情があります。それは、“お正月を特別な期間として過ごす文化・習慣”です。今回は、そんな季節の乗り切り方を考えます。

♥ 心臓の病院がいちばん混み合う季節

冬は、心血管疾患の病棟や外来が最も混み合う季節です。図1をみると、30日以内の院内死亡率は冬季が12%と高く、一方春季では5%と低いことがわかります1)

図1

国立循環器病センターの調べ2)では、約19万6千件の心臓由来の心停止を解析すると、10月から4月頃にかけて心筋梗塞の最重症型である心停止の発生が多いことがわかっています(図2)。

図2

また、ある報告によれば、愛知、三重、岐阜の3県における急性心筋梗塞530名の検討で、夏季に発生したのが21%、一方冬季に発症したのが31%と差がありました。気温、天候との関係では、降雪日、5℃以下の寒冷時、10℃以上の気温 の日内変動がある日に頻発していました3)。このように、心疾患の発症率や心臓が原因での死亡率は、季節によって大きく異なることが知られています。

冬に発作が起こりやすい原因のひとつは、“ヒートショック”といわれる現象です。暖かい室内から寒い空間に出たときに、血圧が急激に変動し、身体的ストレスが心臓に負荷をかけるためです。さらに、寒いところでは心臓の血管(冠動脈)が過度に収縮を来たしやすいことも要因と考えられています。

なお、発作を起こしやすい場所のひとつは、浴室や脱衣所です。居間や寝室は暖めていても、脱衣所が寒ければ、暖かい浴室との温度差がヒートショックを引き起こします。浴室は暖めていても脱衣所が寒いというお宅は、今でも結構あり、注意が必要です。

♥ 楽しいはずのお正月が、リスクになる?

日本人にとって年末年始は特別な時期。しかし、心血管疾患の患者さんには、様々なリスクもついて回ります。表1に陥りやすいリスクについてまとめてみました。

表1

以下は、ありがちな“よくない過ごし方”

  • 師走は誰にとっても、なぜか慌ただしいもの。ストレスもたまりやすくなります。そんな中、大掃除でいつになく頑張りすぎてしまう方がいます。大晦日の夜には夜更かししてテレビを観る方、寒い中初詣に行くという方もいるでしょう。
  • おせちは普段の食事よりもかなり塩分が濃いものが多く、またどうしても食べ過ぎてしまいがち。お酒もついつい進みます。
  • 段は吸わないたばこにも、雰囲気で手が伸びてしまったり・・・。
  • 友人やお子さん、お孫さんたちが集まり、張り切ってお相手を始めます。お客さんが帰った後は、後片付けもできないくらい疲れてぐったり・・・
  • 逆に、お正月は何もせず、こたつで動かない、不活動状態の方もいるでしょう。

かくして、お正月が明ける頃にはいろいろなタイプの不摂生が確立。こんな時には免疫力も低下し、風邪を引きやすくなります。お正月明けにすぐに元の生活に戻れればいいのですが、だらだらと不摂生が続いてしまうと、心血管イベントリスクはさらに上がります。

「お正月明けに病院へ直行」など、万が一にも起こってしまっては、せっかくの楽しい思い出も台無しですね。

次項では、心血管リスクを減らして有意義なお正月を過ごすための心得について考えましょう。

もっと知りたい方へ

心血管イベントを避ける、お正月の過ごし方

年に1度のお正月、家族や友人とともにわいわい楽しむ方、静かにのんびりと過ごす方、様々でしょう。ただし、心臓病の方にとって、この時期の過ごし方は大変重要です。その年に健康で過ごせるかどうかが、この時期を上手に乗り切れるかどうかで決まるかもしれません。

■ お正月は、心不全の増悪因子がたくさん

年末年始はいろいろな意味で、とっても健康リスクが高くなります。特に心不全を増悪させる因子を、図3に列挙しました。年末年始にこれらの要素がすべて集中していると思いませんか?

図3

特に、寒さ、塩分過多、ストレス、感染、過活動ないし不活動といった項目は、その後も続く冬の寒さを乗り切るためには避けたいことがらです。こうしたリスクを、いかに回避したらよいのでしょうか

■ ハートセンターで行っている、ハイリスク患者さんへのアドバイス

ハートセンターの心臓リハビリにおいては、看護師や栄養士、理学療法士らがそれぞれの専門を活かし、お一人お一人にアドバイスを行っています。

  1. お食事
    お正月はお雑煮やおせちなど、塩分の多い食事をたくさん摂取しがち、食べる量も増えがちです。薄味のものを一部に取り入れるなど、工夫が必要です。
  2. 大掃除
    大掃除をはじめとする年末の“行事”は、あわただしくならないよう、できるだけ早く着手しましょう。できれば本格的に寒くなる前から少しずつ行うのがよいでしょう。秋のうち、または春になってから大掃除を行う家庭も増えています。
  3. 初詣などの外出
    初詣は寒い中、大勢の人が集まり、それだけ風邪などの感染のリスクが高いです。また疲れもたまりやすいので、帰宅後はしっかり休養をとりましょう。できれば日中に出かけることをおすすめします。
  4. 来客
    お子さんやお孫さんの訪問は楽しみな反面、意外に疲れがたまるのも事実。お客様が帰った後に体調や生活リズムを崩すことがないよう、疲労を自覚した場合はしっかり休養を取りましょう。体調に自信がないときは、その旨先方に伝えましょう。
  5. 飲酒
    普段は控えていても、お正月くらいは飲みたいという方もいるでしょう。ただし、酔い潰れるほど飲むことは厳禁、あくまで“楽しむ”ことを目的に。他人に合わせず、自分のペースを守りましょう。
  6. 禁煙
    普段吸わない人でも、その場の雰囲気でたばこに手が伸びてしまいがち。しかし、禁煙は守りましょう。周囲にもできればそのことを伝えておきましょう。
  7. 適度な運動
    オーバーワークや過活動はもちろん、“寝正月”のような不活動も、心臓は負担をかけてしまいます。適度に運動を取り入れ、からだを活性化させておきましょう。
  8. 感染予防
    慌ただしく疲れのたまりやすい年末年始は、免疫力が低下し風邪などの感染症にかかりやすい時期です。できるだけ人混みは避け、やむを得ず人混みに入るときはマスクを使用しましょう。また、帰宅後は手洗いを徹底しましょう。

一年の計は正月にあり。リスクを減らし、健康な日々を送るために、年末年始の過ごし方に十分注意しましょう。

参考文献:

  1. 地球環境 Vol.8 No.2,193-200.(2003)
  2. http://www.ncvc.go.jp/pr/release/003108.html
  3. Yamazaki, N. Effects of hereditary and environmental factors on development of myocardial infarction. Jpn Circ J. 37, 69-76. (1973)

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