心臓リハビリテーション部門
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2018.10.1
29

ストレスが過度になるまえに
「休養もトレーニングのうち」

ストレス社会と言われる現代、どんな人でもある程度のストレスを抱えています。今回は、ストレスの心身への影響について考えてみましょう。

♥ うまく使えば成長のタネになる、ストレス

ストレス下の状態とは、外部からの様々な刺激(ストレッサー)によって自分の心や身体に負荷がかかり、歪みが生じた状態のことです。ストレスに対し、私たちは次のように反応します。

  1. 警戒反応期…ストレッサーに反応し、交換神経が緊張状態にある時期。
  2. 抵抗期…心身が“戦闘モード”になり、ストレッサーから自身を守ろうとする時期。全身の機能が最も活動する時期。
  3. 疲弊期…過度のストレスが長期にわたりかかることで消耗し、生体機能が衰え様々な不調が現れ始める時期。

人間の体にはさまざまな刺激を受けても、常に一定の状態を維持できるようなメカニズムが備わっています。1か2にとどまって上手にストレスを利用すれば、心身は鍛えられ、より強い刺激に備えられるようになります。一流のスポーツ選手などは、ストレスを上手にバネに変えて強くなっていきます。このように、適度なストレスは人を成長させる因子であるともいえます。ところが、自分のキャパシティを超えて我慢して、無意識に“疲弊期”に突入してしまうひとも、珍しくありません。体や心に負荷がかかったとき、恒常性を保つようはたらくのは、主に自律神経やホルモン系です。

♥ 自律神経:“勝負”の神経・交感神経 vs. “癒し”の神経・副交感神経

自律神経系とは、内臓や血管に分布して呼吸,消化,吸収,循環,分泌などの活動を調節する神経系で、自分の意思に関わらずはたらきます。交感神経系と副交感神経系とがあり、図1のように、互いに反対のはたらきをしながら各器官を二重支配しています(図1、2)1、2)

図1

図2

交感神経は、仕事中や運動中などに優位になり、心身を活発にします。古代には、外敵から身を守って戦ったり逃げたり、狩りをしたりするなど、生き抜くために不可欠でした。一方、副交感神経は、“メンテナンス”を担う神経です。心身を回復させ、次の活動に備えるために大切な神経です。

♥ ストレスに関わるホルモン系

成長ホルモンは、主に寝ている間に、傷ついた組織や細胞の修復、筋肉の増強、疲労の回復や免疫力の向上などを促進します。一方、ストレスホルモンと言われる副腎皮質ホルモンは、本来生命維持のために欠かせないホルモンであり、交感神経を刺激して運動や仕事の活力をアップします。しかしストレスが強いと成長ホルモンの分泌が低下し副腎皮質ホルモンが過剰になり、交感神経が過度に優位となって心身の消耗が進んでしまいます。

♥ 軽んじてはいませんか?「休養もトレーニングのうち」

頑張っているのに、結果が出ない、という経験は、誰しもあるでしょう。日々の仕事、資格取得のための勉強やウォーキングやジム通いなどの身体的トレーニング、過酷なダイエット・・・ そんなとき、振り返ってみてください。「オーバートレーニングではありませんか?」

そんなときこそ、「心身ともにその課題から離れてみること」をおすすめします。

頑張り屋さんほど、頑張りすぎることでストレスホルモンを分泌し、交感神経を過度にはたらかせ、エネルギーを枯渇させて、知らず知らずのうちに自身の潜在力を奪っているかもしれません。どんな人でもいつかエネルギーが枯渇したり疲弊したりします。そのときのコンディションによっては、誰しもパワーが出し切れないという経験があるでしょう。

休養もトレーニングのうちです。休養(つまり副交感神経優位)を意識して、活動のプランを組んでみましょう。

もっと知りたい方へ

ストレスと心疾患-日々のオーバーワークから災害後の障害まで

近年のさまざまな研究から、ストレスと心疾患の密接な関係がわかってきました。

■ 日々のオーバーワークに要注意、心筋梗塞の発症が急増!

ストレスや過労を重ねると、心疾患を発症しやすいことがわかっています。図3を見てください。

図3

「睡眠5時間以下でなおかつ月61時間以上の長時間労働が重なると、そうでないものに比べ急性心筋梗塞発症のリスクが約5倍になる」という結果を表しています3)。また、週55時間の労働が続くと、脳梗塞など重篤な血栓塞栓症を引き起こす不整脈、“心房細動”のリスクが1.4倍になるというデータもあります4)。働き方改革の必要性が国を挙げて叫ばれていますが、このようなデータをみると、厚生労働省が本気になるのもわかります。

■ ストレスが引き金となる、“たこつぼ心筋症”

たこつぼ心筋症は、心臓の動きに障害が起こる疾患です。正常な心臓は全体が一様に収縮しますが、この病気になると、図4のように心臓の根元の部分だけが収縮して先端が全く動かなくなります。

図4

その形がたこつぼに似ているため、たこつぼ心筋症と呼ばれています。日本人医師が最初に報告しました。高齢女性に多い病気で、急性心筋梗塞によく似ているため緊急カテーテル検査がよく行われますが、冠動脈の閉塞はありません。原因の詳細は未だ不明ですが、急激な感情の変化によるストレスや肉体的ストレスによる交感神経の過緊張が関係すると言われています。

■ 東日本大震災後に増加した、心血管系疾患の発症

今年は地震や台風など、大きな災害が次々と押し寄せていますね。大災害に見舞われたあとは、心臓に様々な影響が起こることがわかっています。図5は、東日本大震災後に東北大学医学部の研究グループが中心になって調べた調査の抜粋です。

図5

これをみると、震災直後にさまざまな心疾患の発症が急増していることがよくわかります5)

  • 急性冠症候群
    急性冠症候群とは急性心筋梗塞と不安定狭心症の総称で、冠動脈プラークの破綻による急性の内腔閉塞によって生じます6)。不安定プラーク破綻は交感神経の活性化による血圧や脈拍の上昇、血管のれん縮などが引き金となりますが、これらはすべてストレッサーの刺激が限度を超えることで起こりえます。
  • 心不全
    東北大学の調査では、心不全患者さんは東日本大震災発生の週から約3カ月にわたり増えていました。原因としては、急性期には薬の欠乏、寒冷な気候や海水のご縁による肺炎などが挙げられています。また保存食を食べ続けたことによる塩分摂取の増加や避難所や仮設住宅暮らしでのストレス、運動不足などから、交感神経が活性化され高血圧や不整脈が増加したことも挙げられています7)
  • 致死的不整脈
    ストレスからくる交感神経の活性化は不整脈の増加にも関与します。2008年の四川大地震の後には、心室性不整脈(心室細動、心室頻拍)が増加したと報告されています8)
  • たこつぼ心筋症
    前述のように、災害後のストレスによりこの病気の発症頻度が高くなるといわれています。

まさに、「ストレスは万病の元」。ストレスは完全には避けられませんが、できる限り“疲弊期”に至る前の段階でコントロールできるといいですね。

参考文献:

  1. 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
  2. ブリタニカ国際大百科事典
  3. Y Liu, The Fukuoka Heart Study Group, Occup Environ Med. 2002;59:447–451
  4. Eur Heart J. 2017;38(34):2621-2628
  5. Aoki T, Fukumoto Y, Yasuda S, et al:The Great East Japan Earthquake Disaster and cardiovascular diseases. Eur Heart J 2012;33(22):2796-2803
  6. Fuster V, et al. The pathogenesis of coronary artery disease and the acute coronary syndromes(1). N Engl J Med326:242―250,1992.
  7. 下川宏明, 東日本大震災から学ぶ内科疾患~特徴,対応,予防~ 1)東日本大震災と循環器疾患. 日本内科学会雑誌 第103巻 第3号, 2014
  8. Zhang XQ, et al. Effect of the Wenchuan earthquake in China on hemodynamically unstable ventricular tachyarrhythmia in hospitalized patients. Am J Cardiol 103: 994-997, 2009.

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